2005年2月26日 下北沢251 水戸華之介アコースティックライブ 「ウタノコリ2005」
水戸華之介 (vo) / 澄田健 (Ag) / 藤原真人 (p)
少し昔の80年代。奇妙なメイク、股間に白鳥、そして歌に合わせてバナナを振るバンドがいた。アンジーだ。
硬派じゃなけりゃロックじゃない思っていたその頃の私は、そんな彼らを見て見ないフリをしていた。楽しそうだな、と思いながらも一線を引いてきた。しかし今夜、私はついにその一線を越えてしまったのだ。
というワケで、水戸華之介アコースティックライブなのです。
水戸華之介は前から気にはなっていた。でもべつに私はアンジーのファンだったわけではないし、今の水戸華之介の曲も知らない。でも一度はじっくりと見たかったわけだし、なんたってギターは、私がいま一番カッコイイと思っているギタリスト、澄田健だ。ゆっくりじっくり音楽を楽しめるアコースティックライブならと思い、友人にチケットをお願いし、いざ水戸ちゃんワールドへ、レッツゴー。
前回の下北沢440は少し手狭だったから、と水戸ちゃんは言うけれど、今日の251だって満員御礼。イス席と立ち見のお客さんで店内はぎっしり。トイレだって長蛇の列だ。さすが水戸ちゃん、並じゃない。
今まで何度か、たまたま対バンとかで水戸ちゃんのライブは見たことあるけど、水戸ちゃんを観るためにわざわざ出掛けたのは今日がはじめて。だから「はじめての水戸ちゃん」なのだ。
ライブは、現在の曲からアンジー時代の曲、そして出来たてホヤホヤの新曲まで、それはそれは素晴らしライブだった。
メイクはしない、メガネをかけたフツーの服装の水戸ちゃん。ステージ中央のイスに座り、アコースティックらしい佇まいでしっかりと歌ったかと思えば、曲の合間には天才的なトークで、腹がちぎれるほど笑った。とてもうまい。歌も曲も喋りも、お客さんの扱いだってバツグンにうまいのだ。程良いテンションでテンポよく進むから、まったく飽きたりもしない。さすが水戸ちゃん、伊達じゃない。
中盤、ホテルカルフォルニアのカバーをやった。
歌詞は水戸ちゃんのオリジナルで、それはあまりにも悲しくてみじめで、辛い歌詞だった。これはもしかしたら水戸ちゃんの実体験かもしれない。ホテルカルフォルニアという不朽の大作に、水戸華之介個人の深い深い心の闇のようなモノを見事に重ね合わせたこの人のすごさに、私は言葉もなかった。
そして、その水戸ちゃんの歌声にみんな泣いていた。私もちょっと泣いた。さっきまでの和やかで楽しい雰囲気とは全然違う。眉間にしわを寄せて煙草の煙を漂わせながら、どこかに深く入りこんでしまったような神経質な表情で、声を絞り出すように唄う水戸ちゃんは、まるで喜怒哀楽を独りで演じる舞台役者のようだった。
表情もさっきとは別人のように変わってしまい、何も寄せ付けないほどの緊張感は、水戸華之介の核心を見てしまったような衝撃だった。
そこでふと、この人にはミュージシャンというよりも、「表現者」という言い方がピッタリと合うように私には思えた。
それから、アンジーの曲もたくさんやった。私はアンジーの曲さえあまりよく知らないけど、でも楽しみにしていたのだ。
「銀の腕時計」。いつくるか、いつくるかと楽しみにしていた曲。藤原さんのピアノでちょっと雰囲気が変わっていたけれど、やっぱり何度きいても感動する。唄っていた水戸ちゃんも、たぶん、感動していたはずだ。澄ちゃんも力一杯ギターを弾いていたから、やっぱり感動していたんだろうか。
「残る歌」という意味だという、この「ウタノコリ」というライブタイトルに最もふさわしい、心に残る1曲だった。
愛の伝道師、ミトちゃん。
テンピュールまくらに大金はたくも
わずか5日でギブアップ。
だれか買ってくれ、と言われてもねえ。
「しあわせのしずく」もやったし「センチメンタル・ストリート」も。実は私は「銀の腕時計」よりも「センチメンタル・ストリート」の方が泣けた。こういう明るく楽しい曲に、歌う人のガンバリとか未来とか生きてる証のようなモノを感じてグッとくるのだ。
もちろん「天井裏から愛を込めて」だってやった。その頃にはもう水戸ちゃんは座ってなかった。ハンドマイクでグネグネと動きながら猛烈に歌っていたし、みんなも左右に手を振っていた。
しかし私はもう立派な大人だ。10代の頃ならいざしらず、いまさら手なんか振れるもんか、とは思ったものの、せっかく水戸ちゃんを見に来たんだからと試しに少しだけ手を振ってみたら、とたんに楽しい気持ちになった!そうなんだ、水戸華之介を目の前にして、カッコつけたり恥ずかしがってたらダメなんだ!
まるで10代の頃にように、とはいかなかったけれど、これでちょっとだけ水戸ちゃんに近づけたような感じがして嬉しかったのだー。
そういえば、私の隣の女性たちがとても楽しそうだった。一緒に歌いながら、手をあげたり、声をあげたり。水戸ちゃんの喋りにもいちいちツッコミを入れていた。彼女たちには水戸ちゃんへの愛がすごくあったから、隣りにいても全然イヤじゃなかったし、水戸ちゃんとの時間を思いっきり楽しんでいる彼女たちが羨ましくもあった。
そこでなんとなく感じたのは、見に来ているファンの人達の気持ちがとても素直だということ。水戸ちゃんの歌を聴きたい、という真っ直ぐな姿勢というか、音楽を聴く気持ちを皆しっかりと持っている。みんながみんな「水戸ちゃんの歌を聴きに来たよ」という顔をしていて、まるでお客さん全員が「水戸ちゃん応援団」のようで心強い感じ。
こういう人達が集まる場所はとても気持ちがいいし、自分までもが「よし、ガンバって聴くんだ」という気持ちにさせられて嬉しいのだ。
それと、水戸ちゃんはKAZOO(カズー)がとっても上手だった。
カズーというのはアルミ製の長さ10センチくらいの笛のようなモノ。プペ〜って感じのすごくチープな音で、500円くらいの値段だから楽器というよりもオモチャに近いかも。
だれが吹いても音の出る楽器だけれど、水戸ちゃんの吹く音はしっかりと水戸華之介節になっていた。きちんとソロのメロディーも奏でていたし、とてもしっかりした音が出ていて、おまけにコブシまで利いていたのだから、何をやっても器用な人なのだ。さすが、水戸ちゃん!
そんなこんなで水戸華之介アコースティックライブ。
楽しい時には思いっきりはしゃいで、笑わす時にはとことん笑わして、しかも歌はしっかりと聴かせる。中途半端なとこなんて全然ない、水戸華之介の旨味がギュッと詰まった、ホントに楽しく素晴らしいライブでした!
澄ちゃんのアコースティックギターもはじめて聴けたし、藤原さんというピアニストも知れたし、なんと言ってもあの水戸ちゃんが、とても立派な歌い手になっていたのがすごく嬉しかった。この人は、きっと毎日コツコツと真面目に、生きることに向き合ってきたんだと思う。
だから、そんな水戸ちゃんの唄う歌はとても温かくて、すごくいっぱい「愛」が溢れていた。愛こそが水戸ちゃんのテーマなのかもしれないと私は思ったのだ。
こんなに楽しくて笑ったライブも久しぶりだったし、こんなに胸がジーンとして、何日も余韻が残るライブも久しぶりでした。つい、水戸ちゃんだったら私の魂あずけてもいいかな、なんて思っちゃったりして(笑)
水戸ちゃ〜ん、スゴイよー素晴らしいよー!カッコイイよー!ヒュ〜ヒュ〜!