第三者の女性に子どもを産んでもらう「代理出産」の是非を検討してきた日本学術会議が、原則禁止の法規制を求める報告書素案を出した。
生殖補助医療の進歩により、既存の法律では対処できない親子関係が生まれている。生命倫理にかかわる重大な問題でもある。子どもの福祉を第一に、なるべく早く法律を整備したい。
代理出産をめぐり世論は割れている。タレントの向井亜紀さん夫妻が米国人代理母に双子を出産してもらった事例や、娘に代わり50代の母親が孫を出産した事例などが大きな関心を集めた。厚生労働省が07年に実施した意識調査では、代理出産容認派が54%となった。
法務・厚労省から検討を依頼された日本学術会議は1年余りの論議を重ねた。世論の変化を踏まえつつ、原則禁止の方向を示したのは、マイナス面を重視したためだ。
素案は、代理母にとっての身体的、精神的な負担や、子どもの心に与える影響など深刻な問題があることを指摘している。日本産科婦人科学会による自主規制では限界があり、法で禁止する方向を示した。処罰の対象は営利目的の場合とした。
妊娠・出産はどんな危険が伴うか分からない。母体に異常が起きた時、代理母と胎児とどちらを優先するかという判断を迫られることもある。家族関係や経済的な問題から、断りきれずに代理母になることを同意するケースも出かねない。
子どもの負担を考えると、親子関係はできるだけ単純、明快であるべきだ。
法整備までには詰めるべき点がたくさんある。
第一は、限定的にでも代理出産を行う道を残すかどうかだ。
18日に開いた同会議の検討委員会では、国の監視下で代理出産を試行的に行い、医学的な判断材料を集める案も検討された。ほかに手段がない人に、選択肢を残すべきだという声も根強い。
処罰の対象を「営利目的」にした場合、どの程度の対価を営利とみなすかも問題だ。「非営利」の名目で、なし崩しに代理出産が増える心配もある。
外国で生まれたケースも処罰の対象とするのか、も重要な論点だ。限定的に代理出産の道を残す場合には、子どもが自分の出自を知る権利をどう保障するかという問題も考える必要がある。
03年には厚労省の部会が代理出産禁止の報告書を出したが、与党内の反発などで法案提出ができなかった。明確なルールがないまま、既成事実先行では困る。あまり結論を先延ばししてはいられない。