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2008年01月20日(日曜日)付

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再生紙偽装―「エコ」でだます罪深さ

 「古紙40%」とうたわれた年賀はがきに、じつは配合率ゼロのものも。100%再生紙という触れ込みのコピー紙にも7%しかないものがあった。

 ノート用紙、印刷用紙、封筒……。再生紙とされる製品が軒並み配合率を偽っていた。環境に配慮したい、という人々の善意を踏みにじった罪は重い。

 食品から発覚した昨年来の偽装は、耐火材、再生紙へ、とどまるところを知らない。企業社会が土台から腐ってきたのではないかと不安になる。

 再生紙の偽装はなぜ始まったのか。

 はがきでみると、92年ごろ、製造工程で出る切りくずなどの損紙は「古紙」として扱えると見込んで受注した後、損紙は古紙扱いされないことが分かった。通常の古紙を40%も混ぜると、シミなど品質上の問題が起きる。そこで、こっそり配合率を下げたという。

 発注者に正直に告白して、商談をやり直せばよかったのだが、ライバルに注文をさらわれたくない気持ちが邪魔をした。ところが、そのライバルも偽装していた。こうして、配合率は検証しにくいのをいいことに、業界をあげてウソをつくのが常態になっていった。

 再生紙の「エコ偽装」は、古紙を再利用するときの技術的な制約を製紙会社が隠したことから起きた。

 配合率が高くても高品質の紙がつくれるかのように装って売り込む。ユーザー側は実情が分からないから、色つやや手触りなど再生紙への要求水準を高めていく。その結果、配合率という数字が独り歩きしてしまった。

 古紙の再利用は環境意識を高めるのに一役買ってきたが、ムード先行のエコ活動からはもう卒業すべきだ。

 古紙利用をめぐる条件は、さまざまに変化している。中国への古紙輸出が急速に拡大し、良質な古紙が少なくなった。再利用を重ねれば、古紙自体の質も落ちる。印刷技術が発展し、手にしても指が汚れない半面、再生の工程で洗っても落ちにくいインキが増えている。

 求める品質によっては、再利用のため薬品や燃料をたくさん使い、環境にかえって悪くなることさえある。

 したがって、個々の紙製品の古紙配合率を高めるほど環境によい、と単純には言えない。古紙の再利用を全体として高めていくことが肝心なのだ。それが実現するよう、古紙をめぐる条件の変化に応じて、再生紙についての基準も柔軟に見直す必要がある。ユーザーとともに新しい用途を開発するのも大切だ。

 これらを行う大前提は、製紙会社が古紙利用の実情を包み隠さず正直に伝えることである。ウソをつかれたのでは、すべてが狂ってしまう。こうした意味で、今回の偽装はまことに罪深い。

 パルプという森林資源のおかげで成り立っている製紙業界は、環境重視をうたい文句にしてきた。その原点に立ち返って猛省しなければならない。

生活保護行政―北九州市を苦い教訓に

 生活保護に税金をなるべく使わないようにする考えが、「DNAのように職員に染みついている」。

 自ら設けた第三者委員会からそう厳しく批判されたのは、北九州市である。なにがなんでも生活保護の支給を抑えようというのだから、この街に住む人たちはたまったものではあるまい。

 第三者委員会は、生活保護を受けられなかったり、打ち切られたりした男性3人が相次いで孤独死した事例を検証した。委員会が先月まとめた最終報告を読むと、市がどんな方法で保護費を減らしていたのかがよくわかる。

 第一の方法は、「申請したい」という人が窓口に来ても、あれこれと理由をつけ、申請書を渡さないことだ。相談に来ただけ、として処理する。これが悪名高い「水際作戦」と呼ばれるものだ。

 門司区の50歳代の男性は2度も福祉事務所に出向いたのに、申請書をもらえず、ひっそりと独りで亡くなった。

 自立するよう求め、生活保護の辞退をしつこく迫るのが第二の方法だ。

 死後1カ月で見つかった小倉北区の50歳代の男性はこのケースにあたる。けっきょく辞退届を出した。だが、担当の職員はそのあとの就職先や収入の見通しを尋ねることさえしなかった。

 第三が数値目標だ。60年代から05年度まで、各福祉事務所は年度初めに保護費を抑える目標を立てていた。

 北九州市は石炭産業の衰退の影響をまともにかぶり、生活保護を受ける人の割合がかつては全国一だった。

 それがいまでは、保護率は政令指定市のなかでも下位に落ちた。それどころか、指定市の保護率が軒並み上がり続けるのをよそに、横ばいを保っている。北九州市は全国のモデルとして、厚生労働省から高く評価されてきたのだ。

 厚労省が監査で北九州市の問題点を指摘したのは昨年末である。過ちを見過ごしてきた厚労省の責任も免れまい。

 つい最近まで省内では、生活保護の水準を引き下げるかどうかが検討されていた。だが、いまは引き下げなどを考えるのではなく、保護を必要とする人にきちんと支給することが先決だろう。

 最終報告は、北九州市内で保護受給中に孤独死した人が半年間で24人いたという事実も指摘した。生活保護だけでは救えない孤独死の対策に取り組まねばならないのは、他の自治体も同じだ。

 一方で、収入を少なく申告するなどの手口による不正受給も後を絶たない。厚労省によると、06年度の不正受給は前年度に比べて2200件増え、金額は約19億円上回る約90億円にのぼった。

 北九州市が保護費を抑えにかかったのも、もとはといえば、暴力団員などの不正受給が目立ったからだ。

 生活保護の不正受給にいっそう目を光らせるとともに、本当に生活に困っている人の命綱にする。各自治体は、そんな当たり前の行政をしてもらいたい。

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