◇6月までに医師3人退職
藤枝市立総合病院(藤枝市駿河台、毛利博院長)の産婦人科医3人全員が6月までに退職する予定であることが分かった。病院側は再考を求めているが、最悪の場合は産婦人科が休診に追い込まれる恐れがある。同病院の分べん数は年間約900件と志太・榛原地区で最も多いだけに、地域に大きな影響を与えそうだ。【鈴木直】
同病院によると、昨年12月末、3人を派遣し、事実上人事権を持っている浜松医科大学から、1人を3月末で、残る2人も6月中に病院から引き揚げると通知があった。理由として大学の医局充実などを挙げたという。
年末に松野輝洋市長らが、今月7日には毛利院長が大学を訪れ、再考を要請。毛利院長は21日にも再度大学を訪問し、産婦人科が継続できるよう協力を求める予定。一方で、休診に追い込まれる事態に備え、6月以降の出産予定者については他病院への紹介を始めている。
18日会見した毛利院長は「今後の対応は、遅くとも来月中には結論を出したい。休診が決まれば、近隣の病院や開業医に協力を求めていく」と述べた。
◇背景に全国的医師不足、病院間の連携求める--金山・浜松医大教授
今回の騒動の根本原因は、全国的な産婦人科の医師不足だ。産婦人科は医局に入る医師が少なく、若手医師の半数以上は女性のため、出産・育児などで休職する医師も多い。医師不足になりやすい構造があるという。
3医師の退職は、医師不足に悩む浜松医科大の「配置転換」の意味がある。寺尾俊彦学長は「お産という部分では藤枝はかなり恵まれた地域。県内全体を見て、より厳しい場所に医師を回すことが必要」と説明する。志太・榛原地域は、藤枝以外に焼津・榛原・島田の3市立病院に計11人の産婦人科医がおり、地域には開業医も多い。伊豆や中東遠では医師不足はもっと深刻だ。
だが、小児科のある藤枝病院は、地域では数少ない新生児の集中治療ができる医療機関だという問題がある。協力要請を受けた焼津市立総合病院の太田信隆院長は「通常分べんなら対応できるが、未受診での飛び込み出産などハイリスクな分べんでは静岡市の医療機関とも連携しないといけない」と表情を曇らせる。
金山尚裕・浜松医科大産婦人科教授は医師不足を乗り切るには、「複数の病院で担当科を振り分ける『病病連携』(病院間の連携)や病院統合を考えないといけない」と指摘する。だが病院統合や連携は、住民生活に大きな影響をもたらす。大学の医局に縛られる自治体病院にとってハードルが高いのも事実だ。同じ名古屋大系の掛川・袋井の市立病院でも、新病院の設置場所などを巡り綱引きが続いている。
金山教授は「分べんは少数の病院に集約し、それ以外のケアや検診は地元で、という方式にするしかない。『おらが町でどうしても』という考えは変える時期」と話している。【稲生陽】
毎日新聞 2008年1月19日