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2008年1月20日

◎仙台・福岡便誘客へ 北陸発着便の共通認識が必要

 小松空港の福岡、仙台便の利用促進へ向け、石川県が富山、福井県の旅行会社を対象と した需要開拓に乗り出した。両便とも九州、東北と北陸地域をつなぐ唯一の航空路線であることを考えれば、隣県の旅行会社に協力を求めるのは当然であろう。航空路線については県域にとらわれず、「北陸発着便」という共通認識も育てていきたい。

 小松、富山空港はこれまで新規路線開設をめぐりライバル関係にあり、羽田、上海、ソ ウル便など競合路線も存在する。このため、石川県は富山県側の旅行会社のセールスを控えてきたという。昨年秋に富山―福岡便が廃止されたのを機に、小松―福岡便の一日三便への復便と、搭乗率が低迷する仙台便の路線維持を目指して隣県セールスを開始した。

 金沢市と富山県西部の自治体が広域観光推進協議会を設立するなど隣県連携が広がり、 国土交通省も「広域観光圏」の形成を促している。観光分野で広域化が急速に進む流れの中で、石川県が初めて隣県の旅行会社に小松空港の活用を働きかけるというのは意外な気もする。

 航空路線のない福井県とは協力の機運が高まってきたが、富山県とは上海便誘致で綱引 きを演じた経緯があり、空港行政で対抗意識と遠慮が入り交じった雰囲気もあった。だが、行政が県の枠組みに固執していては路線需要を増やすには非効率的である。協力できる路線については北陸としてのスケールメリットを追求していく時期にきているのではないか。

 北陸全体で航空路線を支えるという発想は国際便にとって一層重要である。富山空港に は独自路線として大連、ウラジオストク便があり、小松では六月に台湾定期便が就航する。金沢市が大連との交流強化に動き出しており、石川県にとっても富山空港の大連便は貴重な存在になる。海外からの観光客も石川、富山県といった県域をことさら意識して来日していないだろう。

 海外との交流拡大や広域観光の定着に伴い、小松、富山空港の「北陸の空の玄関口」と しての性格は今後ますます強まってくるに違いない。観光の広域化は国が主導して進められている側面が強いが、各県が互いに歩み寄り、自主的に協力していくことで信頼関係を高めていきたい。

◎代理出産の禁止案 情緒に流されず議論を

 代理出産の是非を論議していた日本学術会議の検討委員会が示した報告書素案は、法律 で代理出産を原則禁止する内容となった。厚生労働省が昨秋公表した意識調査では容認する人が過半数に達したが、米国で代理出産した女性タレントの裁判などが注目されたため同情論に流れたとの指摘もあり、代理出産に対する認識が深まっているとは思えない。

 年度内にまとまる報告書がどんな中身になろうとも激しい異論が予想されるが、賛否両 論が起きることは歓迎である。「かわいそう」といった情緒に流されず、問題点を洗い出す真剣な議論を社会全体で共有し、望ましい方向を探っていきたい。

 諏訪マタニティークリニックの根津八紘院長は一昨年、がんで子宮を失った娘に代わり 、五十代後半の女性が「孫」を代理出産したことを公表し、大きな波紋を広げた。生殖医療では子どもがほしいと切望する女性と、その願いに応えようとする医師との合意で技術が先へ先へと進む傾向がみられる。だが、どんなに素晴らしい技術であっても、社会の共感が得られなければ「医療文化」として定着していかないだろう。

 タレントの向井亜紀さんが米国人代理母に双子の男児を出産してもらい、出生届の受理 をめぐり最高裁まで争われた。判決は「産んだ女性が母」とし、法律面の課題を浮き彫りにした。厚労省の意識調査はその後に行われ、代理出産を「社会的に認めてよい」が54%に上ったが、裁判が少なからず影響を与えたことは間違いないだろう。代理母となる女性の妊娠、出産に伴う危険性や複雑になる家族関係など専門家の間でも意見が分かれているのが現状である。

 今回の報告書素案は、国による厳重な監視の下で代理出産を試行的に実施し、結果の詳 細な研究をもとに将来、その是非を判断する可能性についても盛り込んだ。代理出産は従来の不妊治療から大きく踏み出しており、現時点では法律による一定のルールづくりが必要と思われる。

 生殖医療は生命誕生にかかわる根源的なテーマであり、生まれてくる子が同じ社会を生 きることを考えても決して他人事では済まされない。目をそらさず、深い関心を持ち続けていきたい。


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