通常国会が十八日始まった。就任後初の施政方針演説で福田康夫首相は「国民本位の行財政への転換」を掲げ、生活者重視の姿勢を強調した。
首相就任三カ月余が過ぎても「何をしたい政権なのか見えてこない」といった批判を強く意識してのことだろう。しかし、民主党も「生活が第一」をスローガンに掲げており、福田カラーが鮮明に打ち出されたとは言いにくい。
具体的には「消費者庁」設置を念頭に、各府省にまたがる消費者行政を一元化した新組織の発足と、消費者行政担当相の常設を明言した。食品表示などに絡む偽装問題の続発を踏まえ、「国民目線」で取り組む姿勢を示すことで政権浮揚につなげたいのだろう。だが、実現に向けては関係府省の反発が必至だ。掛け声倒れに終われば、求心力低下にもつながりかねない。
首相は冒頭、「ねじれ国会」で身動きがとれない国会運営に関して「与野党がよく話し合い、結論を出し、国政を動かしていくことこそ政治の責任だ」と述べ、野党との対話重視の路線を堅持する考えを示した。今国会で与野党最大の争点はガソリンにかかる揮発油税などの暫定税率問題だ。「現行税率を維持する必要がある」と訴えた理由に関しては、道路整備事業や温暖化対応の必要性に言及した程度で、素っ気なかった。
演説の中で何回も語られた言葉は「国民」と「環境」だった。首相が「国民本位」とともに、「地球温暖化対策」を政権の二大セールスポイントに掲げようとしている表れといえよう。議長国を務める七月の主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)をにらみ「環境面で世界をリードしていく」と宣言した。ただ、京都議定書で日本に義務付けられた温室効果ガス6%削減の国際公約が守れるのか、二〇一三年以降の新たな枠組みづくりを議長国としてどう主導するかなど課題は多い。
外交問題では、世界に貢献する「平和協力国家日本」を提唱したが、その道のりは平たんではあるまい。また海上自衛隊の給油活動再開のため衆院再議決を余儀なくされた教訓から、自衛隊の海外派遣を随時可能にする「恒久法」に関して「検討を進める」と表明した。慎重な議論が求められよう。
首相は最後に、「井戸を掘るなら、水がわくまで掘れ」という明治時代の著名な農村指導者、石川理紀之助の言葉を引き、国民と政治、行政をつなぐ「信頼」を築く決意を語った。政治への信頼回復には、何よりも首相の指導力と丁寧な説明努力が必要なことを肝に銘じるべきだろう。
NHKは、報道局記者ら三人が、放送される前の経済ニュース原稿を読んで株売買を行って利益を得たとして、金融商品取引法(旧証券取引法)違反のインサイダー取引の疑いで、証券取引等監視委員会の任意調査を受けたことを明らかにした。
インサイダー取引は、一般投資家を欺く犯罪である。報道機関が公共機関や企業から情報を得るのは、国民の知る権利に応えるためであって、記者が金もうけに悪用するなど言語道断である。
NHKなどによると、問題の記者らは昨年三月八日午後三時のニュースが放送される前に、外食産業が回転ずしチェーンをグループ化するという経済部の特ダネを社内の端末で閲覧するなどして、株式千―三千株程度を売買し十万円から四十万円の利益を得たという。社内調査に二人は認め、一人は否認している。橋本元一会長は、会見で謝罪するとともに、厳正に対処する意向を示した。
問題は、三人が同じ職場で勤務したことがなく、連絡を取りあったりもせず、それぞれ別個に株取引を行っていることである。こうした不正が以前から職員の間で、行われていたのではないかという疑いを起こさせる。
増田寛也総務相は、報道に関与する全職員の株取引を調べて公表するよう求めた。権力から独立しているべき報道機関が、こうした指示を受けるとは情けない。NHKの自浄能力が試される。
二〇〇四年に発覚したチーフプロデューサーの詐欺事件以後、不祥事が相次いだNHKは、コンプライアンス(法令順守)徹底を図るなど意識改革を進めてきたはずだが、末端まで及んでいなかった。事態は深刻である。
(2008年1月19日掲載)