NHKの報道記者ら3人が株式のインサイダー取引で不当な利益を上げた疑惑が明らかになった。国民に真実を伝えるべき報道に携わる人間が、職務上知り得た情報をもとに違法行為に手を染めたとは言語道断だ。NHKは職員によるインサイダー取引の再発防止を徹底すべきだ。
証券取引等監視委員会から調査を受けたNHKによると、3人は昨年3月、外食大手による企業買収ニュースの特ダネを社内の原稿システムで知り、放送前に株式を購入していた。金融商品取引法のインサイダー規制では報道記者も対象とされており、公表前の情報をもとに株式を売買することは禁じられている。
橋本元一会長は記者会見し、「報道に携わる者が情報を悪用したことは許せない行為」とわびた。情報がほかに漏れるようでは、記者に真実を語る人がいなくなる。国民の知る権利や報道の自由を支えるべき記者による違法行為は特に罪が重い。
今回の違反疑惑がNHK改革の最中に起きたことを、経営陣は重く受け止める必要がある。視聴者による受信料の不払いが広がったのはNHK職員の制作費流用が引き金になった。今回の事件をみると、職員の規律が回復したとはいえない。
今週初め、緊急地震速報の音声が誤ってNHKの各チャンネルに流れるというトラブルが起きた。導入したばかりのシステムで、職員の操作ミスが原因だった。違法行為やミスが続いたことで、NHKに対する国民の信頼はさらに傷付いた。
24日で任期を終了する橋本会長は16日、2008年度のNHK予算案を総務相に提出し、会長職をアサヒビール出身の福地茂雄氏にバトンタッチする。予算案が国会で無事承認されるためには、会長自らが信頼回復に向けた具体策を改めて国会の場で示す必要がある。
今回の出来事はNHKだけの問題ではない。日本経済新聞社でも06年、広告担当の社員による違法な株式取引が発覚した。報道機関として改めて自らの襟を正す機会としたい。最近はインターネットの発達で、誰でも簡単に情報を交換したり、発信したりできる。報道機関は記者をはじめ、社員に対する法令順守を徹底する必要がある。