阪神大震災から十七日で丸十三年を迎えた。六千四百人を超える犠牲者への鎮魂の祈りに包まれる被災地の多くは、かつてのにぎわいや活気が戻ったが、歳月は地域間や被災者間に復興の格差という新たな問題を生み出している。
大都市神戸の壊滅的な光景が忘れられない。日本列島に衝撃が走り、あらためて自然災害の恐ろしさを見せつけた。一方で、ボランティアや近隣同士による助け合いの大切さ、建造物の耐震性、都市機能のもろさなど多くの教訓をもたらして日本の防災の再出発点になった。
人口やインフラなど表面上の復興は進んだ。しかし、依然厳しい状況に置かれた被災者も多い。共同通信社が神戸市内の被災者向け公営賃貸住宅(復興住宅)と、被災後に再建した民間マンションに暮らす被災住民計二百人を対象に行ったアンケートでは69%が将来への不安を訴えた。家計や健康問題が大きな理由となっている。
兵庫県内の復興住宅では、昨年一年間に自殺八人を含む六十人が孤独死した。平均年齢は七十五歳だった。高齢になり健康を害し、新たな人間関係を築けず孤立感を深めた末の寂しい死だったのか。被災者の自立や安心感なくして復興は終わらない。行政やボランティア、地域住民たちによるきめ細かで息の長い取り組みが大切だ。
震災時の被害や救助・救援活動などには全国的な関心が寄せられるが、その後の復興には薄い。真の復興を果たすためにも震災の体験や教訓を風化させてはならない。神戸市では震災後生まれや転入者などが全人口の三分の一を占めるというだけに心配だ。
その中で新たな動きが出てきた。神戸学院大では今春から、学生が復興住宅の高齢者や震災障害者らの聞き取り調査に入る。震災時の様子や、その後の生活を記録して教訓を次世代へつなぐ狙いだ。懇談などで住民との信頼関係を築き、後輩にも作業を引き継ぐという。被災者の安らぎや意欲も引き出してほしい。
注目はこのほど設立された「日本災害復興学会」だ。阪神大震災をはじめ各被災地で得られた知恵を集め、行政や医学、法律関係者、報道機関、特定非営利活動法人(NPO法人)などが連携して復興のあり方を研究する世界的にも珍しい学会である。
被災地にとどまりがちな復興経験から得た知恵を広く共有し、専門家が総がかりで取り組む意義は大きい。活動の盛り上がりを期待したい。自然災害は避けられないだけに、減災と復興のあり方が再生と次への備えの鍵を握る。
山口県で二〇〇二年、三菱自動車製大型車のクラッチ系統部品の欠陥が原因で運転手の男性が死亡した事故で、業務上過失致死罪に問われた元三菱自社長ら元役員四人に対し、横浜地裁は全員に執行猶予付きの有罪判決を言い渡した。
欠陥車による死亡事故で、自動車メーカートップが有罪判決を受けたのは初めてである。元社長の「事故防止義務」をどう判断するかが注目されたが、判決は注意義務を怠り欠陥を漫然と放置し、男性を死亡させたと認定した。
自動車メーカーは人命を預かる重大な責任を負う。トップに厳格な事故防止義務を認めた判決といえ、業界全体で気を引き締め、危険予防策を強化する必要がある。
裁判では、四人が欠陥を認識し事故を回避する措置を取ったかなどが争われた。判決は元社長が部下の行った不具合の選別作業が極めて不十分だったのに精査させなかったと指摘し、リコールせずに放置すれば死亡事故が発生することは予測できたと非難した。他の被告についても、不具合を熟知しながら元社長に意見具申せず、長年の隠ぺい体質を打破しようとしなかったとした。
弁護側はリコールすべき不具合の選別をした部下が独断で隠ぺいし、四人とも事故の予測は不可能だったなどと主張していた。
一連の欠陥隠し事件に絡む三件の裁判で最後の一審判決となった。別の二件は一審でそれぞれ無罪と有罪判決が出され、裁判が続いている。
今回の判決を受け、三菱自は「全社一丸となりコンプライアンス(法令順守)確立への取り組みを続けていく」とする。常に業務の在り方を点検し、安全確保を徹底してもらいたい。
(2008年1月17日掲載)