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2008年1月17日

◎下げ止まらぬ株価 「日本売り」加速の様相さえ

 景気はこれからつるべ落としに悪化するのではないか。そんな不安に襲われるほどの株 価の下げっぷりである。サブプライムローン問題や米株安の影響があるとはいえ、世界の主要市場のなかでも、東京市場の下げは際立っている。これはコンプライアンス不況に加え、政局不安や構造改革の後退といった日本独自のマイナス材料が嫌気されているからだろう。政府・日銀は「日本売り」の様相を呈してきた株価下落にもっと危機感を持ってほしい。

 十六日の東京証券市場は、前日比四六八円安となり、一万三五〇〇円割れ目前に迫った 。これは二〇〇五年十月以来の低水準で、東証一部銘柄の実に九割以上が値を下げている。前日の米国株安に加えて、サブプライムローン問題で金融機関の損失がさらに増える見通しが強まったこと、円が二年半ぶりに一〇五円台をつけ、景気をけん引してきた自動車や電機など輸出企業の業績に陰りが出てきたことなどが売り材料になったという。サブプライム、円高、原油高の「三重苦」により、当面は底値を探る展開を覚悟しなければならないのではないか。

 米銀行最大手のシティ・グループは十―十二月期決算で二兆四千億円もの損失を計上し た。日本の金融機関への影響は避けられないが、米国に比べれば損失はケタ違いに少ないはずだ。それにもかかわらず、米株安以上に日本株が下がる理由が分からない。株価を測るあらゆる指標は歴史的な低水準にあるのに、特に外国人投資家による「日本売り」が止まらないのである。

 私たちは、建築基準法改正や金融商品取引法の制定などによる「コンプライアンス不況 」が景気の足を引っぱっている事実を繰り返し指摘してきた。これに加えて、不透明感を増す政局と構造改革路線の後退イメージが、「日本売り」を加速させていると言わざるを得ない。

 政府・日銀はこうした事実をどう考えているのか。サブプライムローンの当事国である 米国以上に日本株が売られている原因をきちんと調査・分析し、対策を練る必要がある。市場が疑心暗鬼にとらわれているような時には、米国の金融当局のように、しかるべき立場の者が市場に明確なメッセージを送ってほしい。

◎金沢城の石垣調査 城下町研究の拠点作りを

 石川県教委の金沢城調査研究所が全国各地の専門家を客員研究員に委嘱して実施する城 郭石垣の比較調査は、金沢城の価値を明らかにするうえで意義ある取り組みだ。金沢城跡は今年、国史跡の指定が見込まれており、城跡が名実ともに城下町都市のシンボルとなるのを機に城下町研究の拠点を目指すのも金沢の大事な方向性であろう。近世の文献や現場が豊富に残り、その資格は十分にある。

 全国的に城郭や城下町の町並みを観光資源としか見ない傾向がある中で、金沢の場合、 世界遺産運動を通して城下町遺産の価値を見直して再評価する学術研究が活発化した。そうした成果を蓄積、体系化し、研究拠点化を進めることで城下町遺産を核とした都市づくりに厚みが増すだろう。学術的な裏付けは城下町の求心力を高めることにもなる。調査の成果を学問的な世界に閉じ込めず、金沢の魅力づくりにも反映させてもらいたい。

 城郭石垣の調査は福岡藩、熊本藩、久留米藩など九州地方と比較して行われ、さらに調 査対象を全国に広げていく計画である。諸大名が石垣職人をどのように召し抱え、職人集団がどのような変遷をたどったのか、石垣を通して近世史の一断面に迫る興味深いテーマである。

 金沢城が「石垣の博物館」と専門家の間で高く評価されるのは、時代の変遷が分かる多 様な石垣が現存していることに加え、石垣積みの秘伝書「後藤家文書」が存在し、石垣を切り出した「石切丁場」という築城の現場も残っているからである。これほど城郭石垣の研究拠点にふさわしい土地はなく、専門家のネットワークは今後の城下町研究にも生きるはずである。

 国土交通省が新年度から創設する歴史的環境形成総合支援事業で金沢市は選定第一号を 目指している。この事業は古都保存法の理念を広げ、他の歴史都市も支援する狙いだが、城下町の明確な評価はなされていない。世界遺産運動の中では従来の日本史の枠を超え、城下町を世界的な位置づけで評価するという大きな視点も生まれており、金沢市が城下町のトップランナーを目指すなら、この地から新たな「城下町像」を発信していく気概があっていい。


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