「日本の火が見えるぞと甲板(デッキ)より伝声あれば皆立ち上がる」。石川県歌人協会副会長の陶山弘一さん(81)の歌が歌会始の佳作に入った 元県立高校長で高校相撲金沢大会では六十年以上も決まり手のアナウンスを続けていることでも知られる。今年のお題は「火」。陶山さんに詠まれたのは一九四六(昭和二十一)年、台湾からの引き揚げ船から見た九州枕崎の「火」である 金沢二中から台湾の師範学校に進学。そのまま現地召集された。入隊したのは金沢から旧満洲、沖縄を転戦して台湾にたどり着いた九師団だった。因縁深い故郷との再会だったが、間もなく敗戦。学生に戻され最後の引き揚げ船まで待たされた 一週間の船旅の末、千人近くの引き揚げ者が「日本の火が見える」の声で甲板に駆け上がった光景は六十年間忘れることがなかった。鹿児島から汽車を乗り継ぎ広島、大阪などの惨状にぼう然としながら雪の金沢へ。三月初旬の駅前に風花が舞っていたという 戦火をくぐり抜けた陶山さんの中で燃え続けた火は、ふるさとの灯であり、日本復興の炎でもあった。同じ時代を生きた人々の、こころの歌のように胸に響く。
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