インドの自動車メーカーが、日本円で二十八万円の車を公開した。日本の軽自動車をやや下回る排気量で、世界で最も安い車だ。
インドの庶民が買える「国民車」を目指すという。日本や欧米のメーカーも価格面で張り合える車をインドなど新興国向けに開発中だ。先進国の市場が成熟した今、新興国は魅力的な市場であろう。
記事を読み、一九八〇年代の日米自動車摩擦を思い出した。燃費に優れる上に故障しにくい日本車が「アメ車」を駆逐し、米国自動車産業労働者らの怒りを買った。これからは新興国を中心に、自動車市場をめぐる激しい覇権争いが展開されよう。
東京大21世紀COEものづくり経営研究センターの大鹿隆特任教授が日本自動車工業会の機関誌「JAMAGAZINE」昨年三月号で、新興国への自動車産業進出戦略を提言していた。自動車を輸出産業に育てたい新興国の思いに配慮すべきという。
自動車産業は多くの部品を組み立てることで成り立つ。大鹿氏はこの点を踏まえ、重要な部品の製造を新興国に任せるなどし、技術基盤の底上げを手助けする視点を持つことが大切と説いている。
日本が得意としている環境技術面での貢献なども考えられるのではないか。自動車メーカー各社は、共存共栄の市場開拓を目指してもらいたい。そうした姿勢が、世界戦略を成功に導くだろう。