◇5役を演じ魅力を出した海老蔵/形きれいに決めた亀治郎の雪姫
正月の東京では新橋演舞場と浅草公会堂の2劇場で、若手を中心にした歌舞伎公演が行われている。
新橋演舞場は「雷神(なるかみ)不動北山桜」の通し。「歌舞伎十八番」の「毛抜」「鳴神」「不動」が含まれ、海老蔵が鳴神上人、粂寺(くめでら)弾正、不動明王、早雲王子、安倍清行の主要5役を演じている。原作を今井豊茂が新たに脚本化、奈河彰輔が演出、藤間勘十郎が振付・演出。
早雲王子の皇位を狙う陰謀を縦線に、それを阻止しようとする文屋豊秀(段治郎)の家臣、弾正の活躍(「毛抜」)、王子に陥れられ、怒りのため竜神を封じ込めた鳴神上人が、雲の絶間姫(芝雀)にろう落されるまで(「鳴神」)などが描かれる。
海老蔵は弾正では場面に応じての表情の変化がはっきりとし、愛きょうがある。鳴神では絶間姫にやりこめられる姿がおもしろく、後の怒りの強さとの差異が際立った。早雲の敵役ぶり、清行の柔らかみ、不動の大きさ。俳優としての魅力が出た。
芝雀の絶間の品位と色気のバランスがよく、市蔵の玄蕃(げんば)、橘三郎(きつさぶろう)の万兵衛がうまい。27日まで。
浅草公会堂は「新春浅草歌舞伎」。昼の最初が「傾城反魂香(けいせいはんごんこう)・将監閑居(しょうげんかんきょ)」。勘太郎の又平と亀治郎のおとくが夫婦愛を表現した。愛之助の雅楽之助(うたのすけ)がいい。次が「弁天小僧」。七之助の弁天は女から男への変わり目が鮮やかで、獅童の南郷もしっかりと受ける。愛之助の駄(だ)右衛(え)門(もん)に大きさが感じられた。
夜の最初が「金閣寺」。亀治郎の雪姫は爪先ネズミなど形がきれいに決まる。獅童の大膳は柄に合い、大きさと強さがある。セリフがこもり気味になるのが惜しい。勘太郎の東吉は、きっぱりとして品とすがすがしさのあるいい出来だ。最後が「与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)」の「見染(みそめ)」と「源氏店(げんじだな)」。愛之助の与三郎が「見染」ではおっとりとした柔らかさを見せ、「源氏店」ではセリフにおもしろみを出した。七之助のお富が粋で美しい。亀鶴の蝙蝠安(こうもりやす)、男女蔵(おめぞう)の多左衛門。27日まで。【小玉祥子】
毎日新聞 2008年1月16日 東京夕刊