社 説

薬害肝炎訴訟和解へ/解決への第一歩にすぎない

 全国の裁判所で争われてきた薬害C型肝炎訴訟が解決することになった。全国原告団などと厚生労働省が15日、基本合意書に調印、仙台高裁などで続いていた裁判はすべて和解によって終結する。
 国や製薬会社の責任を訴え裁判に取り組んできた患者や家族にとって、長年の苦労に報いる結果になったと言えるが、ほかの多くの肝炎患者の救済には程遠い。

 国内には既にC型が150万人以上、B型を合わせれば300万人を超えるほどのウイルス性肝炎の患者がいる。ほんのわずか前進しただけだ。
 治療や救済がこれからますます重い課題になっていくことを、国はしっかりと受け止めなければならない。
 C型肝炎訴訟の解決が長引いた背景には、膨大な費用負担があった。仮にすべての患者に給付金を出すようなことになったら、1000億から兆の単位にはね上がってしまう。

 裁判に訴えた患者は全国で約200人だけ。感染の原因となった止血用の血液製剤フィブリノゲンなどを投与されたことが、カルテなどの記録によって証明できたケースに限られている。
 裁判の解決をもたらした「薬害肝炎被害者救済特別措置法」では、症状に応じて1200万円から4000万円の給付金を出すことになったが、血液製剤投与が条件になる。出産や手術で使われたことが判明する人のみだ。
 救済されるのは結局、提訴した人を含めても全国で1000人程度だと見積もられている。

 C型肝炎ウイルスが混入した血液製剤によって感染した人は約1万2000人もいると推測されているのに、その10%程度しか救えない。
 さらにC型肝炎の原因は血液製剤だけではない。昨年末、神奈川県の病院で5人がC型肝炎を発症したことが発覚した。器具の使い回しが原因らしい。そうした医療行為が原因で感染した人の方がはるかに多いとみられる。肝炎ウイルスは日常生活ではうつらず、血液を介して感染するためだ。

 何100万人もの感染患者をどうするのか、どうしても避けて通れない問題になる。
 ウイルス性肝炎の患者のうち出産や手術、輸血を受けた経験があるといった人については、カルテなどが残っていなくとも給付金を検討してはどうだろうか。額は特別措置法通りでなくともいいだろう。そうした配慮をしないと、とても実のある救済策とは言えない。

 治療の支援も大切だ。国はすべての肝炎患者を対象に、今後7年間で1800億円の助成を行う計画だが、まだまだ足りない。肝炎訴訟の弁護団によれば、インターフェロン治療が必要な患者の負担をゼロにするには4800億円が必要だ。

 巨額の負担にはなるが、早期の治療で治せれば、放置するよりも結果的に3兆円の医療費削減につながるという。
 その考えにも確かに一理ある。これからの数十年という長期の視点に立って、思い切った対策に踏み出すべきだ。
2008年01月16日水曜日