2008年1月16日(水) 東奥日報 天地人



 一年に四千人以上の医師が病院を辞めていく。悪化する病院経営、過酷な労働と低い対価、変わる患者との信頼関係…。今の状況が五年も続いたら、日本の病院医療は完全に駄目になる。日本臨床外科学会会長の出月(いでづき)康夫さんの話だ(雑誌「世界」二月号)。

 同号の特集「医療崩壊をくい止める」で、経済学の宇沢弘文さんと対談している。なぜそうなったか、宇沢さんは言う。国民皆保険は素晴らしい制度だったが、中曽根政権以降の医療費抑制政策があった。さらに小泉・安倍政権で市場原理主義に基づいた制度改悪へと。医療を経済に合わせてきた国の政策の誤りだった、というのだ。

 先日の本紙にも、そうした宇沢さんの批判の一文があった。人が生きていくため、社会が円滑に動いていくために必要な共通財産。この社会的共通資本という考え方が欠落してきたゆえに、今の惨状につながったのだと。医療の高度化や病院の維持、医師の知識や技術の蓄積、地域が求めるサービス機能。それらに見合わぬ診療報酬制度の欠陥。つまりは構造的な問題だと指摘する。

 産科や小児科をはじめ医師不足は深刻だ。地域の中核病院は人も金もピンチにある。救急車に乗ってもたらい回しされ、亡くなる人も相次ぐ。足元でも全国でも、うめきが聞こえる。健康で文化的な最低限度の生活を。憲法が掲げる権利は大きく揺らいでいる。

 国民の声と医の側からの発信と。それらもむろん大事だが、何よりも政治が取り組むべきことだ。崩壊は加速している。


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