◇人を助ける力欲しい--宇田慧吾(けいご)さん(18)=水戸市見和
かばんから突然、ノートを取り出した。群馬出身で大洗で没した詩人、山村暮鳥(ぼちょう)(1884~1924年)の作品「ある時」がそこにあった。
<雲もまた自分のやうだ/自分のやうに/すつかり途方にくれてゐるのだ……>
大洗海岸の松林に建つ詩碑から写したという。朗読してから「人生という中で、みんなある意味で途方に暮れていると思うんですよ」とさらり語ってみせた。
物心ついた時にはボーイスカウトに入り、中3の9月からは水戸第2団ベンチャースカウト隊に所属している。「自分の力の最大限ってレベルは、今はどの辺か見えてきた。楽しくやっていろいろ結果が付いてきた」。07年度に取得した日本のスカウト最高位「富士章」は、茨城県連盟で平成生まれの第1号だった。
04年10月23日に発生した新潟県中越地震でのボランティアが一つの転機だった。中学生では車の免許はなく仕事にならず、思うように役に立てなかった。被災地はメディアの報道と異なり、物資があふれていると感じた。人のために働き、感謝された瞬間が大きな幸せだと実感しながらも「自分も善意の空回りを起こした一人ではないのか。人を助ける力が欲しい」と考えた。
偕楽園でドングリを拾うが、ゲームセンターやカラオケの楽しみ方は分からない。在籍する茨城高では「理想は自分の手で実現したい」と1年前期と2年後期に生徒会長を務め、2年の夏に右足の靱帯(じんたい)を切るまでは野球に熱中した時期もある。気の置けない「ゼロ距離」で付き合える確かな友達が数人いて、政治や思想、音楽、大人の恋愛まで対等に語ったりする大人たちも周囲にいる。
大学進学を控えた今、牧師になりたい。「今までの人を幸せにしたいというのは、自分が求めている形に相手を導く発想だった。それはおれのためだけで、これからはありのままを受け入れる。『お前、そのままでいいんじゃない? おれはお前を必要としているよ』って」。宣教師だった山村暮鳥は雲上からうなずくかもしれない。【立上修】=つづく
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■四つの質問■
(1)はやっていること 分からない
(2)人生で一番の幸せ 日々同等に楽しい
(3)好きな言葉 幸せを得る本当の道は、他の人に幸せを分け与えることにある
(4)好きな異性 美人で性格が悪くて……
毎日新聞 2008年1月12日