臨時国会は、十五日閉幕する。衆院で与党、参院で野党が多数を占める「ねじれ」状況を背景に、異例ずくめだった。
政府、与党が最重要課題として取り組んできた新テロ対策特別措置法案は、参院で否決された後、衆院本会議で五十七年ぶりに憲法五九条の再議決規定により成立した。次の通常国会でも予算関連法案が控えている。福田内閣は苦しいかじ取りを迫られよう。
昨年九月十日に召集された臨時国会は、安倍晋三前首相が退陣表明し福田康夫首相の所信表明まで約三週間にわたり空転した。
また与党は、対テロ新法を成立させるために十九年ぶりに会期を再延長した。越年国会としても十四年ぶりだ。
しかし福田内閣は給油活動の再開がなぜ必要か、テロとの戦いにどう関係しているかなど、納得いく説明を怠った。民主党も、給油量訂正や前防衛事務次官の汚職事件、政治家と防衛商社幹部らとの宴席同席疑惑の追及に終始した感がある。
憲法には、衆参両院の意思が異なる場合、衆院が出席議員の三分の二以上の多数で法案を再び可決すれば、法律となると規定されている。再議決自体は法的に問題がないとしても、国民への説明を積み重ね世論の合意を得る努力は必要だ。安易に活用するのは問題があろう。
衆参のねじれで、対テロ新法のように対決に終始した法案がある一方で、生活関連法案などでは協調し、政府提出十四件と議員立法十二件の計二十六の法律が成立した。民主党が提案した改正被災者生活再建支援法は、与党の要求で修正が行われた。薬害肝炎被害者救済特別措置法も与野党が歩み寄った。
与野党間の協議で修正を加えて成立した法案もあり、ねじれ国会が対立一本やりでなかったことは、評価できよう。今後の課題として修正に至る過程を公聴会や委員会など公開の場で国民の前に明らかにする必要が指摘されている。実現させたい。
民主党は参院で「法案の嵐」作戦を掲げ、年金保険料流用禁止法案、農業者戸別所得補償法案、対テロ新法「対案」などを次々可決したが、成立したのは一本にとどまった。福田首相と小沢一郎代表による大連立構想は、ねじれ打開を模索した動きだったが、密室会談では政界に混乱をもたらそう。
対テロ新法の成立で、福田内閣の支持率は41・4%と昨年十二月中旬の前回調査より6・1ポイント上昇した。首相が重要課題を片づけたことが要因とみられるが、もちろん安心できる状況ではあるまい。
宇宙開発委員会計画部会が、月周回衛星「かぐや」の後継として今後十年以内に無人探査機の月面送り込みを目指す宇宙開発長期計画の中間報告案をまとめた。三月までに最終決定する方針だ。
報告案では、地球と最も近い月は、さらに遠くの宇宙探査の足掛かりになると指摘する。日本が小惑星探査機「はやぶさ」などで築いてきた無人探査技術を宇宙開発に生かす意義も強調している。
月の研究は、人類が月面に立ち、月の石も採取した一九六〇―七〇年代の米アポロ計画によって進み、理解できたとの見方が広がっていた。しかし、九〇年代、米国の月探査機が月の表と裏の様相が異なることを示し、月の複雑さが判明した。
月への科学的関心が高まり、昨年十月に中国が月探査衛星「嫦娥1号」を打ち上げ、今年はインドや米国が計画する。月探査ラッシュといえる状況だ。
先陣を切ったのは日本だった。昨年九月に「かぐや」を打ち上げ、現在月の上空約百キロを周回しながら観測データを地球へ送ってきている。画像データからは月の地形の形成過程解明につながる手掛かりなどが得られると期待される。月の地平線から昇る青い地球の映像は、全人類は国境や民族などに関係なく、同じ「宇宙船地球号」のメンバーだと実感する。
「かぐや」の後継となる無人探査機が月面着陸すれば、周回軌道上から遠隔観測している「かぐや」よりさらに詳しいデータが得られ、月の謎解明に役立とう。懸念するのは、月の資源開発を意識した各国の探査競争の激化である。日本は、国際協調と平和利用に向け、先導的な役割を果たしていくことが大切だ。
(2008年1月15日掲載)