「しんぶん赤旗編集部。現在の発行部数は日刊、日曜版を合わせて約160万部(撮影:伊勢 一郎) キヤノンのワーキングプアや松下の偽装請負、トヨタ車のリコール、国会議員の事務所費問題やゼネコンの談合問題など、「しんぶん赤旗」の記事から火がつき社会問題化した事件は近年数多い。 日本記者クラブにも加盟していない「赤旗」が、なぜ他紙が後追いせざるをえないようなスクープを連発できるのか。「赤旗」の編集局を訪ね、その強みがどこにあるかを聞いた。 「しんぶん赤旗」の編集局長奥原紀晴氏の実感では、この2~3年で赤旗の影響力は確実に強まっているという。 冷蔵庫の虚偽表示のスクープを他紙が後追い 奥原編集局長「最近は他紙がウチの後を追うようになってきました。これは2005年6月に報じた、冷蔵庫の消費電力虚偽表示のスクープが大きかったと思います」 週末しか使っていない家の電気代が異様に高いことに不審を抱いた市民からのメールを受けた「赤旗」編集局が取材を重ねたところ、カタログに表示された消費電力量は冷蔵機能だけの消費分で、冷凍、霜取り機能は止めた想定にして、不当に低く見せていたのが判明した。 この報道が経済産業省を動かし、翌年5月にJIS(日本工業規格)基準を改正させ、消費電力表示をそれまでの2~5倍に是正させた。 この間、大手家電メーカーが広告収入の多くを占める他の一般紙は、ほとんど報道できず、このスクープを契機として、「赤旗」がとりあげた問題を他紙が後追いする事例が増えてきた。昨夏から話題になった偽装請負問題もその1つだ。 地道な調査報道で偽装請負問題を提起 「赤旗」日曜版では2005年10月2日号で、偽装請負を告発し直接雇用を勝ち取った松下プラズマディスプレイ(大阪府)の吉岡力さん(半年で解雇され、裁判闘争中)の闘いを報じていた。 記事を書いた岡清彦記者を中心に「赤旗」日曜版取材チームが追い続けた偽装請負問題は、2006年7月末に朝日新聞がキャンペーンを張ったことで一躍、社会問題になり、大規模な偽装請負を続けてきたキヤノンの会長でもある御手洗冨士夫日本経団連会長は厳しい批判を浴びることとなった。 岡記者「偽装請負で働かされている彼らは、親の世代からは、自分の息子や娘が次々と仕事を変える、そんな気ままでいいのかな、と思われていた時期がありました。 ところが、そういうふうにしか働けない労働者が天下のキヤノンや松下、トヨタにもたくさんいる。その原因を社会の仕組み、政治の根源まで問題提起したときに、今まで自分の子どもをそんな目で見ていたのは間違っていた、という読者からの反響がありました」 広告収入に依存しない体質が大企業告発を可能に しかし、事業収入に匹敵する広告収入を得ている一般紙では、広告主となる大企業の問題点を告発するのは容易ではない。 キヤノンの偽装請負キャンペーンを張った「朝日新聞」に対して、キヤノンは2006年10月末以降、広告の出稿量を減らし、「朝日」が共催する美術展への協賛を開催直前に下りたという。一面広告で約3000万円という広告収入を失うことは朝日にとって大きな痛手だ。 奥原編集局長「『赤旗』は大企業の広告は一切載せないという方針なので、全く遠慮がいらない。大企業が社会的責任を果たさずに不当なことを行う場合には、その行為を暴いていくことができます」 もう1つの強みは、約40万人の党員が全国約2万4000の支部で活動する草の根の情報ネットワークだが、取材のきっかけとなる情報は党員や支持者以外からも提供される。冷蔵庫の消費電力虚偽表示の情報提供者も「赤旗」の読者ではなく、周囲に相談した結果、「赤旗」ならきちんと調べてくれるから、と薦められたという。 2~3年で部署を異動することが多い一般紙と違い、「赤旗」では重要なテーマは長年かけて継続的に取り組むことができるという。17年にわたりトヨタを取材してきた岡記者に、取材を続ける動機と現在までの経緯を聞いた。 トヨタの内情を次々報道 岡記者「2003年8月3日付の記事は、トヨタ本社でまん延していたサービス残業を防止するため、カードリーダという機械を使って入退室の時刻を記入して、上司のパソコンにそれが記録されて見られる仕組みを作ったという内容です。 これは共産党が実態を調べ、国会で200回以上に及ぶ質問をして改善された事例です。 2006年9月3日付の記事は、トヨタの『ヴィッツ』が3回エンストしてディラーに持って行ったが原因がわからず、また走行中にエンストした、と日曜版の読者の方から連絡が入り、新潟の現場まで行き車を見せてもらいましたが、トヨタはその後7月にリコールを出しました。そこから、トヨタの製造現場や技術者に取材に行き、記事になりました。 90年代のバブル崩壊以降、不況に陥った鉄鋼や電気の影響力が小さくなり、トヨタ1社の影響力がずばぬけてきました。トヨタが賃上げ額を決めたなら、他企業はそれを上回れない状況になりました。 トヨタは2002年の経常利益で1兆円突破、2006年では営業利益で2兆円を突破しました。その秘密は、1つは「かんばん方式」、もう1つは生産性の向上を労使で行うなどの『労使宣言』路線にあります。これが非常に多くの問題をはらんでいるので、それを少しでも明らかにするために取材を続けています。 日本経団連の会長にトヨタ自動車出身の豊田章一郎氏と奥田碩氏が就任し、政治的な影響力もますます大きくなりました。中止していた企業献金を再開したり、自民党と民主党の政策に対して政党通信簿を行うなど、巨大な1私企業が政治にまで全面的に乗り出してくるという事態になってきました。 2002年の春闘では、本来なされるはずだった賃上げを、奥田会長が労務担当重役を一喝したといわれ、ベアゼロになってしまった。それから3年間、労組は賃上げを要求しませんでした。 労働環境の面でも社会的にも政治的にも、トヨタの影響力はひじょうに大きいので、トヨタをまともな会社にしていかないと、日本社会全体がよりひどい状況に陥ります」。 【MyNewsJapanの記事全文の要約です。 オリジナル記事はこちらです】
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