修学旅行は子どもたちにとって忘れることのない、大切な学校生活の一こまだ。その思い出づくりに必ず地域の人たちが同行する学校がある。

 福岡市の南隣、住宅やマンションが立ち並ぶ福岡県春日市の市立日の出小学校(森保之校長、369人)が、それである。6年生2学級の約60人が毎年9月、被爆地の長崎を1泊2日で訪れる。平和学習が目的のその旅に、校区の住民10人が学校支援ボランティアとして参加するのだ。

 住民は出発して戻るまで、児童が6人前後に分かれた各班に1人ずつ付き添う。旅行の安全確保だけが役目ではない。児童らは原爆や被爆者について事前に学習し、現地では班別に住民とともに被爆遺構などを巡る。住民は事前学習の成果を見届けるなど、子どもらが短い旅の間で成長する様子を見守るのが大きな役割なのである。

 お年寄りもいれば、仕事を休んで付いてくる人もいる。宿泊先では児童との交流会もあり、同行を楽しみにしている住民も少なくない。ビデオ上映を交えた事後の報告会では、保護者から感謝の言葉が上がるという。

 子どもたちを学校や家庭だけでなく地域も一緒になって支える。そんな姿を目の当たりにするようである。

▼いがみ合うのでなく


 子どもを取り巻く地域社会の崩壊が言われて久しい。家庭の教育力の低下も声高に叫ばれる。一方で、学校教育の任務は重くなるばかりだが、学力低下やいじめ問題などを背景に学校への世間の目は厳しいのが現状だ。

 だが、互いにいがみ合うだけでは何も解決しない。子どもたちを育てるには、学校、家庭、地域の信頼と連携が欠かせないはずだ。いま、その原点に立ち返る必要がありはしないか。

 日の出小は春日市教委が2005年春、九州で初めて導入した地域運営学校(コミュニティースクール)の1つである。私たちは、教育再生のヒントがここにあると考えている。

 地域運営学校とは、保護者や校区住民が学校運営に直接参加する学校だ。4年前の地方教育行政法改正で可能になった。自治体教育委員会の判断で移行でき、校長のほか教師、保護者、住民の代表、有識者らを指名して学校運営協議会を設ける。協議会は学校予算を含め校長の学校運営方針を承認するなどの権限を持つ。つまり、家庭や地域が学校の教育活動に一定の責任を持って関与することになる。

 学校が何をしようとしているのか。家庭に、地域に何を求めているのか。逆に家庭は、地域は学校にどんな期待を抱いているのか。そして、学校、家庭、地域は何ができるのか。

 日の出小では、月1回の運営協議会でさまざまな課題を話し合う。回数を重ねるに従い、メンバーは次第に胸を開き、協議は夜、2時間、3時間になることもあるという。その下に学習や家庭生活、地域活動など課題別に4つの実働委員会を設け、保護者や地域住民が一緒になって問題解決に向け多様な活動に取り組んでいる。

 そうした中から、家庭学習と生活習慣の改善に向けて学校と家庭をつなぐ「日の出っ子ノート」が誕生した。保護者の読み聞かせグループは活動を地域の幼児にまで広げている。学校を誰にでも公開する月1回の「日の出の日」や、授業を住民からも評価してもらう「モニター会」も始めた。教師も地域の行事に参加する。

 修学旅行に付き添う地域住民は毎年自治会が責任を持って選び、「子どものためになるのなら」と1人5000円の助成までしているのだ。

▼大人が当事者意識を


 「社会総がかりで教育再生を」は、政府の教育再生会議が掲げるスローガンだ。文字通り社会の各界各層の組織や人が総力を挙げて子どもを育てよう、という呼び掛けである。

 確かに、教育は人ごとであってはならない。例えば、最近の保護者は学校に何かを求めはするが、学校に貢献しようとはしないといわれる。学校教育というサービスの「消費者」と言われるゆえんである。誰もが自分の子どものことだけを考えていては、この国の教育は危うくなるばかりだろう。

 しかし、いくら上から旗を振っても恐らく何も変わらない。大事なのは、子どもに最も近い大人である教師、保護者、地域住民が「子どもを育てる主役だ」と当事者意識を持つことだ。

 「教師は緊張感を持って授業を工夫しだした。保護者も住民も、誰に任せるのではない、自らできることをするという意識が芽生えてきた」。日の出小の森校長は手応えを感じている。

 無論、すべてがうまくいっているわけではない。だが、地域運営学校は学校、家庭、地域が手を携える仕掛けになり得るのではないか。そんな思いから、春日市の地域運営学校は現在、小学校7校、中学校2校に増えた。

 学校、家庭、地域の三者連携を掛け声で終わらせてはなるまい。そのためには、どうすればいいのか。お互いに何ができるのか。教育の危機を大上段に語る前に、自らの問題として真剣に考える時期にきている。

=2008/01/06付 西日本新聞朝刊=