◇文科省公表の06年度実態調査
文部科学省が公表した06年度の小中高校などでのいじめ実態調査で、1000人当たりの認知件数が鳥取県は全国最少だった。相次ぐ子どもの自殺などで、いじめ問題に注目が集まる中、県の取り組みが奏功したように見えるが、違和感を持つ関係者は多く、県教委も朗報とは受け止めてはいない。“いじめ全国最少”を素直に喜べない理由を追った。【田辺佑介】
◇調査方法、各校の月例報告のみ 「県内でも増加」と危機感
調査は、文部科学省が各都道府県教委を通じて、毎年実施。いじめ問題への関心の高まりで、今回から▽一方的▽継続的▽深刻な--のすべてがそろっていることを求めるいじめの定義を「一定の人間関係のある者から、心理的・物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの」と変更した。
その結果、全国で、前年度と比べ認知件数が6倍の約12万件、1000人当たりの平均件数は8・7件で、7年連続で0件だったいじめが「一因」の自殺は6件を把握。都道府県別の平均件数は、最も多い熊本県が50・3件で、福井県が36・2件と続いた。鳥取では、認知件数が前年の40件から152件で約4倍の増加。平均件数は福島と広島2・8件、和歌山の2・5件を下回り、全国で最も少ない2・1件だった。
◆結果が一人歩き
一躍、マスコミなどの注目を浴びた鳥取だが“いじめ全国最少”の結果が一人歩きすることに、関係者の間では戸惑いが広がっている。いじめ問題に取り組む鳥取大の藤井輝明教授(看護学)は「今も各学校でいじめやひやかしなどの話を聞く。平均2・1件という数字は実態を反映しているとは思えない」と指摘。実際、鳥取の調査は、担任が気付いたものや当事者の相談などに基づく各校の月例報告をまとめたもので、“最多”の熊本や福井のように全児童・生徒を対象とした無記名アンケートではない。
これに対し、県教委では「いじめの解消、指導が調査の目的で、無記名のアンケートでは、数は把握できても問題の解消にはつながらない」と説明。数値は「実態に近い」との認識だが、「県内での認知件数は前年より増加しており、こちらの方を重大に受け止めている」と、むしろ危機感を募らせている。
◆本気の対策を
いじめの現状については見解の異なる両者だが、ともに“全国最少”の結果には冷ややか。藤井教授は「文科省が各都道府県に数字を出させただけで、本気の対策はない。いじめられる側だけでなく、いじめる側の問題も考えるべき」と訴える。県教委も「調査方法が各都道府県によってまちまちで、比べることにはあまり意味がない。臨床心理士資格を持ったスクールカウンセラーの配置や、子どもが相談しやすい関係作りなど、体制強化に力を入れている」としている。
毎日新聞 2008年1月14日