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【地球発熱】試験管から森林再生 遺伝子組み換え技術活用2008年1月15日
地球温暖化を防ぐ森林の再生を目指す遺伝子組み換え技術の研究が進んでいる。塩害や乾燥に耐え、高い光合成能力を持つ植物をつくり出し、温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)を取り込む作戦。生態系への影響や安全性の確認など課題を乗り越える必要はあるが、悲鳴を上げる地球を守るには、遺伝子レベルまで踏み込んだ技術開発が待ったなしの段階を迎えている。 (温暖化問題取材班) 白衣姿の社員がいとおしそうに見つめる試験管やフラスコ。その中で生きているのは、遺伝子組み換えユーカリだ。ガラスの向こう側で、小さな芽をつけ、根もしっかり伸びていた。 「塩害や乾燥に強い木をつくるのが私たちの仕事。やがてCO2の吸収源として育ち、温暖化の防止に貢献してくれると願っている」。三重県亀山市にある製紙最大手、王子製紙の森林資源研究所で、伊藤一弥所長(52)が「夢」を語る。 製紙原料として最も利用されるユーカリ。良質の紙を効率よく生産するため、製紙業界は成長の早い木を求め、世界各地の山を駆け回った。「これは」という木を見つけては挿し木で殖やす。こんな繰り返しだった。 バイオ技術の進歩とともに、ユーカリが持つ膨大な遺伝情報の解読が可能になり、乾燥などに耐えられる遺伝子をいくつか突き止めた。それらを組み換えて、新種が今、試験管で育てられている。 次の段階は野外に植えても生態系に悪影響を与えないかという確認に移る。ユーカリの花粉は昆虫が媒介する。5年、10年と続く試験の中で「花粉の拡散をどう防ぐか」といった難題が残り、商業利用には至っていない。 『光合成能力の高い木を』安全面に課題も■ ■ 「きっかけは、20年以上前の小さな新聞記事だった」。遺伝子組み換え技術で、植物の光合成能力を増強することに世界で初めて成功した日本大生物資源科学部の奥忠武教授(67)は振り返る。 当時、ヘドロに埋まっていた東京湾内だが、ノリの栽培海域の海水はきれい、と報じた記事だった。奥教授はノリの持つ遺伝子が海水の浄化作用だけでなく、光合成にも関係しているのではないか、と目をつけた。 アブラナ科のシロイヌナズナに組み込むと、背丈が通常の1・3−1・5倍に成長。CO2の取り込み量も3割増えていることが分かり、昨年7月に発表した。 この遺伝子は、太陽光が届きにくい水中の植物は持っているが、陸上の植物は進化の過程で失っていることも判明。陸上植物への組み換えは進化の“逆行”になるが、奥教授は「安全性を確認できれば、他の植物へも応用できる。地球が悲鳴を上げている今こそ、科学の力を結集すべきだ」と訴える。 ■ ■ こうした組み換え技術の研究を民間が先行させたのに対し、国は長年、及び腰だった。食品などと同様、「遺伝子組み換え」へのマイナスイメージを恐れた面がある。 昨年夏、林野庁は組み換え研究の検討会を設けた。「CO2を吸収する技術の1つとして世界が注目している」「国民の理解を得るために、もっと情報発信が必要だ」。こんな意見が相次ぎ、林野庁も「温暖化対策への寄与」を最優先に位置付け、これまでの姿勢を変えた。 検討会に加わった東京大アジア生物資源環境研究センターの小島克己教授(47)は言う。「もはや遺伝子組み換えは危険だとは言っていられない。森林をどう増やしていくか。ポスト京都に向け、日本は技術を蓄積しておく時期にきている」
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