◎研修医の確保 傍観せず、県も総力を挙げて
富山県が臨床研修病院の研修医確保へ向け、医学部学生の周知から研修に至るまで一貫
した取り組みを展開する方針を打ち出した。臨床研修病院の充足率が全国四十六位にとどまったことに危機感を抱き、県が前面に立って研修医の定着を目指す強い姿勢の表れと言える。
石川県は富山県ほどの切迫感はまだみられないが、全国的に研修医争奪戦が激しさを増
す中、そうした現実を県としても傍観しているわけにはいかないだろう。研修医を含めた医師確保については県が総力を挙げて取り組んでもらいたい。
二〇〇四年度に始まった新臨床研修制度で、医学部を卒業した新人医師が研修先を自由
に選択できるようになり、大都市や有名病院に集中する傾向が強まった。このため、地方の大学病院が関連病院に出していた医師を引き揚げ、医師不足に拍車をかける結果となった。医師不足対策として研修医を確保することが地方の差し迫った課題となっている。
富山県は今春卒業する医大生の研修先を決めるマッチングで、県内の募集定員に対する
充足率が42・7%と低迷したことを受け、各病院の聞き取り調査を始めた。それをもとに研修の質向上や処遇改善策などを病院とともに検討する。石川県の充足率は63・3%と前年に比べれば増加したものの、病院間でばらつきがあり、油断はできない状況である。
石川、富山県とも医学生を対象とした東京、大阪などの合同説明会にブースを開設し、
研修医確保に乗り出しているが、他の地域の医師確保策はさらに先を進んでいる。
北海道や東北では医師確保対策室など専門部署を設置し、地元高校生の医学部受験まで
支援する動きが出始めた。教委が受験講座を開催したり、医学部進学を促すために指定校制度を検討する自治体もある。高校生対象の病院見学会や医師体験企画も活発化している。それもこれも地元の高校から医学部進学が増えなければ医師定着が望みにくいという現実があるからである。
医師不足対策は、県の医療対策部門だけでなく、教委なども巻き込んだ、まさに総力戦
の様相を呈している。石川県でも地域全体で医師を育てる機運を高め、医師が定着しやすい環境を整えていきたい。
◎薬害肝炎救済法 政治になお重い宿題
薬害C型肝炎患者を一律救済する特措法の成立を受けて、薬害訴訟の原告と国は十五日
に和解に関する基本合意書に調印する予定である。救済法の早期成立は司法、行政の限界を超える政治決断によるものであり、決断を下した福田康夫首相と法成立に協調した与野党の対応は評価できる。
しかし、救済法ができたからといって肝炎問題の幕を引くことはできない。すべての肝
炎患者を対象にした医療費助成や検査体制の拡充など政府の本格的な支援策はこれからである。救済法とは別に、与党が臨時国会で成立をめざした肝炎対策基本法案は、野党の対案との隔たりが大きいため先送りされ、十八日に始まる通常国会の宿題となっている。肝炎問題に関して政治はなお重い課題を背負っているのである。
政府は薬害に限らず肝炎患者を広く援助するため、今後七年間でインターフェロン治療
費助成など総額約千八百億円の支援策を実施する方針であり、その一部が新年度予算案に計上されている。しかし、こうした対策の法制化をめぐる与野党の対立は臨時国会で解けなかった。
インターフェロン治療は、自己負担額が月八万円程度と高いため、政府・与党は一万―
五万円に抑える助成案を示した。これに対して、民主党は負担の上限を二万円とする案を主張しているほか、肝炎が悪化して起きる肝硬変や肝がんを支援対象に含めるかどうかでも溝が埋まっていないのである。通常国会は与野党の対立が激化するとみられるが、患者の立場に立って合意点を見いだす努力を続けてもらいたい。
薬害肝炎救済法の対象は、汚染された二種類の血液製剤でC型肝炎になった患者である
。この感染被害者は一万人ほどと推定されるが、実際に救済対象となるのはそのうち、カルテなどで汚染製剤の投与が証明できる患者で、千人程度とみられている。救済の対象者を認定する裁判所は、間接的に製剤投与を推認できる患者も含め、なるべく広く救済を図るようにしてもらいたい。
また、集団予防接種の注射器使い回しで感染したB型肝炎の訴訟原告患者は、最高裁で
勝訴しているが、今回の救済法の対象には含まれず、政治課題として残されている。