「こいつあ春から、縁起がいい」。宝くじに当たった人、初詣でで、大吉のおみくじを引いた人。正月早々、思わず口にした人もいるだろう。
元は河竹黙阿弥作の人気歌舞伎「三人吉三」の中にある「月も朧(おぼろ)に白魚の…思いがけなく手に入る百両…こいつあ春から…」という名せりふ。女盗賊が悪事を働き、百両という大金を手にして出た言葉だ。
誰でも年の初めは今年一年がどうなるか、気にかかるものだ。「運がいいように」という縁起かつぎの言い伝えや伝統行事も多い。民俗学者の新谷尚紀氏は「正月は一年の切り替え、あらゆるものがリセットされるとき」とする(『日本人の縁起かつぎと厄払い』青春新書)。
当たり前のようにしている年末の大掃除や「あけましておめでとう」のあいさつ。どれも、リセットのための手順というわけだ。身も心もきれいにし、新たな年の始まりに自らの運気を託している。
年を越した臨時国会は先週の新テロ対策特別措置法の成立で事実上閉幕した。大きな波乱もなく法案可決できた与党だが、まさか「こいつあ春から…」と見えを切る向きはないだろう。昨秋からの衆参ねじれによる混迷は引きずったままだ。
十八日からは通常国会が開会し、国民生活にかかわりの深い予算審議が始まる。「待ってました」と声のかかるような本格的な政策論議を、今度こそは願いたい。