きょうは「成人の日」である。既に社会で働いている人、まだ学校で学んでいる人など立場はさまざまだろうが、「二十歳の門出」を心から祝福したい。これからは一人の大人として責任や義務を負う。結構厳しさを伴うが、自立心を持って自らの道を切り開いてもらいたい。
「成人の日」は、一九四八年に法律で定められた。趣旨は「おとなになったことを自覚し、みずから生き抜こうとする青年を祝いはげます」というものだ。翌年から実施され、今回でちょうど六十回目の節目を迎えた。
戦後の復興から高度経済成長、バブル崩壊など紆余(うよ)曲折を経て今がある。貧困から脱して物は有り余る時代になったが、真の豊かさが感じられる社会とは言い難い。
経済のグローバル化や国内の規制緩和などにより競争は厳しさを増すばかりだ。コスト削減策で賃金の安いパートやアルバイトなどの非正規雇用者は、全雇用者の三分の一を占めるまでになった。
格差拡大が国全体に暗い影を落とす。将来不安を募らせる若者もいるだろうが、大人の仲間入りを祝い、本人が思いを新たにする「成人の日」の意義は小さくない。
だが、この日を迎えたからといって、自分の人生や周囲が急に何か変わるわけではない。ただ、心の持ちよう一つで、いろいろなことが変化していく可能性はある。
「心が変われば行動が変わる 行動が変われば習慣が変わる 習慣が変われば人格が変わる 人格が変われば運命が変わる」
知っている人もいるだろうが、米大リーグで存在感を発揮する松井秀喜選手が大切にしている言葉である。高校野球の恩師が練習場に掲げていた。松井選手の活躍を支える礎といわれる。
今の政治や経済などに不満を抱く若者は多いが、自分一人が何をしても無駄だとあきらめている人はいないだろうか。そう思い込んだら何も変わらない。
まず選挙に行ってみよう。特に次の衆院選は自民、民主両党の間で政権交代が起きるかどうか、重要な転換点となる。若者の「一票」が政治の行方を大きく左右する力になるのは間違いない。
ほかに何ができるか。すぐに行動につながらなくても、社会に対する関心の幅を広げ、深めてもらいたい。地域のことをはじめ年金、少子高齢化、地球温暖化などさまざまな事象に関心を持ち、考え続けることが、自分や世の中を変えるマグマになる。それは一足先に大人になった私たちへの戒めでもある。
日雇い派遣大手の「グッドウィル」(GW)が二重派遣など違法な労働者派遣を繰り返したとして、厚生労働省から事業停止命令を受けた。対象は全七百八事業所で、うち違反があった六十七事業所は四カ月間、ほかは二カ月間という重い処分となった。
厚労省は二〇〇五年六月、労働者派遣法が禁じる建設業へ派遣したとしてGWに事業改善命令を出している。度重なる違法行為に厳しい処分を下すのは当然だろう。GWは抜本的に業務体制を見直し、法令順守を徹底しなければならない。
厚労省などによると、GWは〇四年十月から昨年六月までに延べ千二百四十人を職業安定法に違反して派遣先から別の職場に二重派遣し、派遣法で禁止されている港湾運送業に当たらせるなど合わせて延べ約三万一千人を違法に派遣していた。
GWは「データ装備費」名目などで派遣労働者から不透明な給与天引きを行い、返還を求める訴訟が起こされている。グループ企業では、訪問介護大手コムスンの不祥事も発覚した。グループ全体に利益優先、法令軽視の体質があるのではないか。社会的信用の低下は免れないだろう。
今回はこのほか、GWから受け入れていた労働者をさらに別の会社に二重派遣していたなどとして、三社に事業改善命令が出された。日雇い派遣をめぐっては昨夏、業界大手のフルキャストも事業停止命令を受けた。ずさんな派遣がまかり通っていると批判されても仕方あるまい。
日雇い派遣業界は、規制緩和の流れに乗って急拡大してきた。行政の監視強化とともに、労働者保護の視点から規制の在り方を根本的に議論する必要があろう。
(2008年1月14日掲載)