在宅療養を支える訪問看護ステーションの休廃止が、岡山県内で相次いでいる。看護師を多く配置すれば病院収入がアップする仕組みになった2006年4月の診療報酬改定に伴い、各病院で看護師の争奪が激化、訪問看護の現場にしわ寄せが生じた格好だ。在宅療養のニーズが高まる中、労働条件改善などによる訪問看護師の確保が急務となっている。
「今日は顔色いいですね」。岡山訪問看護ステーション看護協会(岡山市竹田)の看護師杉本珠美さん(46)は市内の男性(58)方を訪れた。
男性は2000年に全身がまひする多系統委縮症を発症、05年3月から自宅療養を始めた。訪問は週3回。杉本さんは胃に直接栄養を送る腹部の「胃ろう」のガーゼ交換や、たんの吸引など慣れた手つきでこなす。
介護する妻(58)は「深夜も電話1本で駆け付けてくれて大助かり。夫の表情も明るくなった」と話す。病院では一生寝たきりと告げられたが、今年から車いすでの外出が可能に。「訪問看護のおかげ。まるで夢のよう」と顔をほころばせる。
常に求人
県訪問看護ステーション連絡協議会によると、加盟する県内の訪問看護ステーションは昨年5月現在で126施設。しかし、このうち1割強の16施設が「休廃止状態」に陥っている。
その要因が診療報酬の改定だ。看護師数が多いほど入院基本料が高くなり、「看護師1人当たりの入院患者が7人」の基準を満たすと診療報酬が上乗せされる。看護の質の向上が狙いだが、大病院を中心に看護師確保に向けた動きが激しくなった。
「東京、大阪など都会の病院から岡山より好条件の求人が舞い込む」と同市の病院関係者。「付属の看護師養成学校のある病院でも卒業生を取られ、採用できたのはわずかだったケースが少なくない」と打ち明ける。
あおりを受けた訪問看護施設。「どのステーションも常に求人している状況」と同協議会。休廃止の16施設のほとんどが看護師不足が原因で「少ないスタッフで無理に運営を続け、質が下がっては意味がない」と若林敏子会長は懸念する。