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【グローバルインタビュー】韓国人同胞の壁の中にいる事務総長 ジェームズ・トラウプ氏
潘基文・前韓国通商相が第8代国連事務総長に就任してから1年がたった。紛争の仲介や人道問題への対処など事務総長は「世界で最も困難な職務」といわれる。前任の第7代事務総長アナン氏に関する著書があり、ニューヨーク・タイムズ・マガジンなどに寄稿しているジェームス・トラウプ氏に、潘事務総長の評価などについて聞いた。一問一答は次の通り。(ニューヨーク 長戸雅子)
−−潘事務総長の1年を振り返ってみてどうか
「まず重要なのは『事務総長がどれほどの成果を上げたか』はその時々の国際情勢や危機への対処に負うところが大きいということだ。その点でこの1年は(スーダンの)ダルフール紛争のような困難な問題はあったが、(国際社会が分裂するほどの)深刻な危機はなかった。事務総長として明確な評価を下せるような出来事がなかった分、潘氏は彼のスタイルや姿勢で評価されがちだ」
−−アナン氏と比較しての印象は?
「全く違う。アナン氏は確かに2期目には困難な時期を過ごし、打ちひしがれているように見えるときもあったが、紳士的で善人の雰囲気を持っていた。(ブダペスト駐在スウェーデン公使として多くのユダヤ人を救った)ラウル・ウォーレンバーグ氏のめいが夫人であることと恐らく関係しているかもしれないが、彼に道徳性やロマンチックなイメージを抱いていた人も多い。その点、潘氏は冷静で控え目、官僚的な印象があり、発言も非常に慎重だ」
−−潘氏はダルフールと気候変動問題、事務局改革を最初の年の課題にした
「いずれも非常に大きな問題で、これらに取り組む中で潘氏は自身の穏健で調和型の手法の限界とぶつかったか、その過程にいるのではないかと思う。例えば、ダルフールへの平和維持活動(PKO)部隊派遣などで、彼はスーダンのバシル大統領に『静かな外交』で臨んだ。しかしバシル大統領は約束をしてはほごにし、明らかに国連と事務総長の権威を落とすよう計算し尽くした行動をとった。潘氏は非公式に自らが乗り出して交渉し、バシル大統領にタフに迫っていると聞くが、思うような結果は出ていない。いつか潘氏はスーダン政府を公然と批判する決断をしなければならないのではないだろうか」
−−潘氏は親米色が強いとされるが
「播氏の場合、アナン氏以上に親米と受け取られていると思う。もし、現在が2003〜04年当時のように、(イラク戦争問題で)米国と、他のほぼすべての国との間で対立があったような状況だったのなら、そのことが混迷を招いていただろう。だが、現状はそうではなく、国連の空気は当時よりは対立色が薄い。そうした事情から、今のところ、播氏の親米色は大きな問題になっていないが、将来は問題化することは大いにあり得る。
例えば、国連事務局改革のような課題に取り組もうとすれば、(総会の多数派を形成する)途上国諸国からの譲歩を引き出すために、播氏は彼らの側に立っていると思わせなければならない。また、最近になって播氏は経済開発問題に言及しているが、これは『経済開発では私は(南北問題での)南(=途上国)に立っている人間であり、解決を進めていきたい』と宣言しているに等しい。彼が『親米派』であるという印象に対抗し、途上国側から少しでも評価を得ようとするのなら、この種のことをやっていかねばならない」
−−韓国人スタッフに囲まれているとの指摘については?
「韓国人スタッフが公式にせよ非公式にせよ、潘氏の顧問団のようになっているのは事実だ。播氏は過去35〜40年を韓国の官僚機構内で過ごしてきた人物であり、彼が知っていて信頼しているのも同じ機構内の人間であることを考えれば、理解はできる。
ただ、これが、播氏は同国人の壁の内側にいるという感じを与えているのが問題だ。また、潘氏の韓国人スタッフは勤勉で強固な意志を持っている一方、秘密主義的なところがみられる。国連事務局の上層部には現在もアナン氏に強い忠誠心を抱いている人もおり、問題を複雑にしている」
−−国連事務総長の職務とは?
「不可能に近い、本当に困難な職務だ。事務総長は巨大組織の管理者というだけでない。潘氏には氏をすぐれた行政官たらしめている組織人としての資質がある。彼の国際社会への知識や賢明さなどは過小評価されているのではないか。だが、偉大な事務総長となるにはそれだけでなく精神的なものが必要で、現在の潘氏にはこの部分がやや欠けているように思う」