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【社説】

成人の日 「関係ねえ」ではない

2008年1月14日

 「淑気(しゅくき)」という季語がある。すがすがしい中に温かみが漂う新年の空気を表す言葉。成人の日。五感を少し働かせ、「淑気」を覚える日にしたい。「KY(空気が読めない)」なんて言わないで。

 愛知県南知多町で活動する「知多半島和太鼓こころ会」は、「縁〜ENISHI〜」という短い曲で演奏を締めくくる。

 「今日の出会いも何かの縁。みんな、どこか何かでつながっている。それを大切にしていきたい」

 リーダーの籾山(もみやま)えりさんは、いつものように声を振り絞り、メンバーを促して深々と頭を下げた。

 九歳で太鼓を始め、十三歳からリーダーを務めてきた。そして今年、新成人だ。

 組太鼓は、人と人との“つながり”の中からリズムを紡ぎ出す。

 三歳から十九歳まで、約二十人のメンバー全員のこころ模様が演奏に表れる。

 そのこころを聴衆が受け止める。

 「みんな、がんばってるな。おれも明日の仕事、がんばるよ」

 太鼓の音に元気をもらった観客のひと言が、えりさんたちには、演奏を続ける力になる。重なり合うリズムの中から生まれるものは、感謝と力の循環だ。

 「子どもたちの気持ちも分かる。母親たちの思いも分かる。三十歳、四十歳になっても、みんなとかかわり合いながら、今よりもっとまっすぐに生きていたい」

 成人になった自分が、これからだれと、どんな“縁”を結べるか。えりさんは楽しみでしかたがない。

 「そんなの関係ねえ」

 年末年始のテレビ番組で、何回これを聞いたろう。昨年末の流行語大賞でもトップテンに選ばれた。ところが、身の回りには「関係ない」ではすまされないことばかり。

 例えば温暖化も食料不安や年金問題も、今よりは未来の暮らしに大きくかかわる宿題だ。答えは自ら見いだしていくしかない。

 去年(こぞ)今年貫く棒の如(ごと)きもの

 「淑気」を詠んだ高浜虚子の句だ。新年や成人の日から、突然何かが変わるわけではない。しかし、漂流する時代や社会とのかかわりを見いだして、自ら変わり、行動を始める節目としては、ちょうどいい。

 大人として認知されれば、それだけ世界が広がって、新しい何かに出会い、“縁”を結ぶ機会は必ず増える。その中から、時間をかけて宿題の答えを見つけていけばいい。

 だから、新成人おめでとう。新しい“縁”を今日から探してみよう。

 

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