長野県内水面漁場管理委員会(漁場管)が指示しながら4年半以上も実施棚上げになっていたブラックバスなど外来魚の再放流(リリース)禁止問題は、メンバーが替わった漁場管で再検討を行った結果、県内全域で原則的に禁止とする方針が昨年末に決まった。しかし、議論の経緯を「不可解」とする委員もいる。またバス釣りを観光資源として活用している野尻湖や木崎湖には、十分な拡散防止策を施せば再放流禁止解除−という道が残されているが、解除の条件次第では大きな反発が予想される。(高砂利章)
「納得がいかない。外来魚小委員会での検討は何だったのか」−。漁場管委員を務める野尻湖漁業協同組合の松木照武組合長は、再放流の全水域禁止という方針決定に憤りを隠さない。
野尻湖畔にはバス釣り客相手の宿泊施設やボート小屋が15軒ほどあり、宿泊費やボート代、食費を中心に年間5億円が使われるという試算もある。しかし漁協青年部が平成16年に釣り客約 800人を対象に行った調査で、「リリース禁止となっても野尻湖に来るか」という問いに対し、「来ない」4割▽「来る回数が減る」4割▽「今まで通り」2割。関係者からすると再放流禁止は死活問題となっている。
■「一部除外」が多数
再放流禁止問題をめぐって、漁場管は昨年6月、松木組合長を含む漁協関係者や学識経験者ら6人による外来魚小委員会を設置。議論を重ね、最終的に「全水域禁止」という案を支持した委員が2人、「外来魚を活用している水域を除いた形での禁止」という案が4人−という結果だった。しかし12月5日に開催された本委員会で沖野外輝夫会長(信州大学名誉教授)が提案したのは「県内全水域で原則的に禁止」とする方針だった。
提案前には全委員からそれぞれの意見を聞いているが、実際には「全水域禁止」とする方針を印刷した紙は委員会開会前から用意されており、各委員の意見とはまったく関係ない形でこの方針が出されている。
沖野会長は取材に対して11月頃には「全水域禁止」とする方針を自身の判断で決めたことを認め、小委員会で大勢を占めた案を覆した理由について、「小委員会の検討結果はあくまで参考意見。一部を除いて再放流禁止という形も、全水域禁止で申請すれば除外される形でも、内容的にはそれほど大きな差はない。それならば『全水域禁止』という形で、誰にでも分かりやすく簡潔で単純にした方が効果が高いと考えた。『一部を除く』とすれば、その一部をどうするかでまた議論が長引いた」と説明した。
しかし、ある委員は「中立の立場にあるべき会長が、2つある案のうちの1つ、しかも専門家で作る委員会で賛成少数だった側をわざわざ取り上げて提案するというのはおかしな話」と反発、「結果的に、漁場管の事務局を務める県園芸物産課が望む形の結論となった」と指摘する。
一方、沖野会長は「委員から反対意見が多ければ修正するつもりだった」と述べ、あくまで1つの提案だったとする。
■委員辞職や訴訟も
再放流禁止は県内全水域が対象だが、漁協などの除外申請に基づいて漁場管が「当該水域からの拡散・逸出が防止されている」と認めた場合には、水域を限定して再放流禁止を解除できる。2月開催予定の次回委員会では、拡散防止策の内容や、解除を受けるにはいったん再放流禁止をしなければならないか−など、具体的な中身が決定される。
松木組合長は「もし一時的であれ、リリース禁止にしなければならないのなら、受け入れることはできない。いったん釣り客が離れたら取り戻すのは困難だし、その間、収入を失う人たちもたくさんいる。そうなるなら、抗議の意味を込めて委員を辞職したい」と決意を語る。組合内でも、仮に再放流禁止の実施で経済的な打撃を受けた場合は、県あるいは漁場管を相手取って訴訟を起こすという強硬な意見もあるといい、今後も紆余曲折が予想される。
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【用語解説】再放流(リリース)禁止
水域に古来から生息する魚などを食べ、生態系に影響を与えるブラックバスやブルーギルなど外来魚を減らすのが再放流禁止の目的。外来生物法ではこうした魚を水域外に持ち出すことを禁じており、再放流を禁止すれば釣った魚を殺処分しなければならなくなる。
バス釣りなどスポーツフィッシングの世界では食べない場合は釣った魚を逃がす「キャッチ・アンド・リリース」をする釣り人が多く、魚を殺さなければならない再放流禁止には反発が強い。また、バスはリリースしても死んでしまうケースが少なくないことから、再放流禁止で釣り人が減るくらいなら、釣り人にたくさん釣ってもらって再放流したほうが実際の外来魚駆除効果は高い−という考え方もある。