- 同人ゲームレビュー -  │HOME全年齢ADV(1)


アパシー ミッドナイト・コレクション vol.1

総評:5
★★★★★☆☆☆☆☆
システム:2│シナリオ:6│グラフィック:7│サウンド:7
鳴海学園に存在する非公式のクラブ活動「殺人クラブ」。人を殺すのが大好きな七人の快楽主義者たちが選んだ次の獲物は、新聞部所属の一年生、倉田恵美。しかし恵美の正体は、恐るべき妄想爆発娘だった……!?




概要
シナリオ - 飯島多紀哉
原画 - 『送り犬』怪聞堂、『柱の傷』日丸屋秀和、『殺人クラブ』芳ゐ
音楽 - body
対象年齢 - 全年齢
価格 - 1500円
動作OS - Windows98SE/ME/2000/XP
頒布日 - 2007年12月29日
パッケージ - DVDトールケース
ブックレット - 無し
プレイ時間 - 1周:20〜30分
総プレイ時間 -
ツール - 吉里吉里2/KAG3
エンディング - 『送り犬』32個、『柱の傷』1個、『殺人クラブ』84個
セーブ - 『送り犬』+『殺人クラブ』12個
画面 - 640×480
スチル - 『送り犬』18枚、『殺人クラブ』28枚(差分除く)
おまけ - エンディングリスト(条件:ED5個以上)、CGギャラリー(条件:既読率30%以上)、音楽室(条件:既読率60%以上)
備考 - WEB体験版あり


シナリオ・他
1995年にスーパーファミコンで発売された『学校であった怖い話』のシナリオライター・飯島多紀哉(飯島健男)氏による学怖派生作品。『送り犬』 『柱の傷』 『鳴神学園七不思議1995 恵美ちゃんの殺人クラブ観察日記』の三作品が収録されています。学怖を知らなくても、本作のプレイに特に支障はありません。

送り犬

送り犬とは、山に住む妖怪である。道行く旅人の後ろを付いて歩き、旅人が無事家に着くまで守ってくれる。ただし、後ろを振り返ってはならない。振り返ると、送り犬に食べられてしまう。幼い頃、祖母から聞いた送り犬の伝承。北聖大学に通う財部美穂は、合コンで知り合った会社員の仙田秋成と「送り犬」の話題で盛り上がる。彼も美穂と同じ兵庫県加東群の出身だった。美穂は仙田に運命を感じて浮かれるが、同時に悩みもあった。毎日、美穂宛に届けられる差出人不明の手紙。美穂は怖くて中身を見れずにいたが……。

送り犬の伝承を巡るホラーアドベンチャー。本編の送り犬ルートの他、ポメラニアンのシャルルルート、ドロドロ人間ルート、ここ掘れワンワンのシロルート、山本幸男の警備日誌ルート、オカルト同好会ルートへ分岐します。ルートによっては全くのパラレル設定になっているため、本編では■■■の正体を持つ●●が他のルートでは普通の人間だったりします。

ストーリーとしては、やはり本編の「送り犬」シナリオが最も納得のいく内容でした。全ての派生ルートの根本ですので、まずは最初に「送り犬」エンドを見ておくことをお薦めします。たった一人、真摯に美穂を救おうとする山崎の純愛に泣ける。シナリオ内で美穂は仙田と一夜を共にしていますが、これって[獣姦]ですよね。うええ。

ポメラニアンのシャルルルートは、犬の視点から見た「送り犬」の世界。美穂視点の本編で登場していた彼や彼女の本来の姿が判ります。外から見た美穂の異常性が浮き彫りにされており、改めて薄ら寒い恐怖を覚えました。

ここ掘れワンワンのシロルートでは、唯一、仙田が善人な設定になっています。しかし他のルートで散々えげつない仙田を見てきた後だと、このルートの仙田も胡散臭く見えて仕方ない(笑) 無事にハッピーエンドを迎えた後も、「で、仙田はいつ本性を出すの?」とか思ってしまいました。許せ。


柱の傷

北聖大学一年生の志垣泰成は、自分が捨て子だったことを両親から打ち明けられ、一人暮らしを決意する。わずかの予算しか無いためにどの不動産屋からも断られ続け、やっと紹介されたのは家賃二万円の汚い木造アパート。そこに住む不気味な老婆は、何かに取り憑かれたように柱を引っかき続けていた。泰成は耐えかねて不動産屋に相談するが……。

ずろうの棲処(前編)』の作者、日丸屋秀和さんが美術・演出を担当されています。他の二作は吉里吉里作品ですが、日丸屋さんがLiveMaker使いのため、『柱の傷』だけはLiveMakerで作られています。ずろうの棲処はグリグリ動きまくりの動的演出が特長でしたが、本作は概ね静かな演出です。日丸屋さんの可愛い絵はホラーには合わないなあと思いながらプレイしていたのですが、終盤のホラー場面でギャッ!とのけぞりました。可愛いキャラ絵とホラー演出のギャップが凄い。

シナリオは30分ほどの一本道。何から何まで謎のまま終わっているので、何とも言えません。日丸屋さんをお披露目するための日丸屋プロモーションノベルだったとでも思えば良いのでしょうか。


鳴神学園七不思議1995 恵美ちゃんの殺人クラブ観察日記

鳴海学園に存在する非公式のクラブ活動「殺人クラブ」。人を殺すのが大好きな七人の快楽主義者たちが選んだ次の獲物は、新聞部所属の一年生、倉田恵美。しかし恵美の正体は、恐るべき妄想爆発娘だった……!?

殺人クラブの獲物に選ばれた恵美ちゃんが持ち前の黒さで殺戮者たちを明るく迎え撃つホラーバトル。新語り部集結ルート、七人目なりすましルート、同人誌執筆ルート、倉田家襲撃ルート、人間狩りルート、飴玉婆さんルートなど、様々なルートに分岐します。各ルートからもさらに細かく分岐し、84種類のエンディングへ。本作はパラレル・ワールドとなっており、分岐によって全く異なる設定と展開になります。惨殺あり、ギャグあり、友情ありと実にバラエティに富んだシナリオです。

登場人物がどいつもこいつも個性がありすぎる。どす黒い妄想うずまく元気娘の恵美ちゃん、口からエクトプラズムを吐く霊感少女の早苗ちゃん、穏やかな凡庸少年かと思いきや覚醒すると殺戮まっしぐらな坂上修一(最凶)。殺人クラブのメンバーも、卑屈な粘着デブ、わがまま不遜なナルシスト、根暗サド、無邪気な残酷ギャル、理不尽満載クール美女など、一筋縄ではいかない奴らばかり。そんなアクの強い高校生たちが殺し合ったり殺し合ったり殺し合ったりしていますので、その手のものが好きな人にとってはたまらないシナリオとも言えます。細田のキモさがだんだん快感になってきた私。

本編ルート

各派生ルートの出発点を担うルート。このルートを元に、10種類のルートへ派生します。本編ルートにある三つのエンディングは体験版でも見ることができますが、やはりオススメは「猟奇変態強姦連続大量殺人魔、坂上」END。殺人クラブが全員集合キメポーズで登場し、ノリノリで殺戮ショータイムを繰り広げたあげく、覚醒したブラック坂上にヌッ殺されるという美味しさ満載のエンディングです。製品版で全てのルートを見た後でも、結局このエンディングが一番面白かったような気が。

倉田家襲撃ルート

殺人クラブが恵美の家を襲い、両親を人質にとって恵美にサバイバルゲームを強制するルート。恵美は家の中を探索し、武器になる物を探しながら、各部屋に潜んでいる殺人クラブのメンバーと戦っていきます。コショウやナベのフタやゴルフボールなどで殺人クラブの面々をぶち殺していく逞しい恵美ちゃんを拝めますが、明らかに死んでいるメンバーたちを「頭から中身が飛び出しているけれど、死んではいないわよね」とか言いながら縛っていく恵美がシュールすぎる。恵美の異常性がナチュラルに発露しており、殺人クラブを全員殺して生き延びた後も後味の悪い結末が待っています。

付き添いルート

恵美が早苗と坂上に付き添ってもらって七不思議の集会に参加するルート。七不思議の集会後、恵美たち獲物は校内に放たれ、殺人クラブの面々に様々な方法で殺されます。恵美はこのルートでは割と普通の女の子寄りで、普通に殺人クラブに怯えて逃げまくっているので、恵美の逆襲を期待する人には物足りないかも。恵美と早苗と坂上が三人で助け合って殺人クラブに立ち向かう結末もあれば、仲違いをして殺し合う結末もあります。恵美たちが三人で殺し合う様を荒井と新堂が屋上から眺めて楽しむ「屋上から人間観察」ENDは、一風変わったエンディングで面白い。

人間狩りルート

どのルートも概ね主人公の恵美視点ですが、人間狩りルートだけは殺人クラブの視点で進行します。殺人クラブのメンバーが一人ずつ恵美を殺しにかかり、失敗すると次のメンバーへバトンタッチ。恵美と殺人クラブの対決というよりは、殺人クラブの面々が仲間割れして殺し合っていくルートです。細田→風間→福沢→荒井→新堂・岩下の順となっており、最後にはリーダーの日野へ。

福沢が荒井を誘惑して、二人で公園で青姦しそうになったのは噴いた。荒井って性欲あったのか(笑) なんとなく、殺人行為によって性欲も満たされているのかと思っていました。(細田あたりは、あからさまに恵美を殺すことで性欲を満たしちゃっているように見えますね)

日野のシナリオを出現させるには、『殺人クラブ』か『送り犬』のエンディングを50種類以上見る必要があります。高いハードルですが、できればこれは見ておくことをお薦め。なぜか日野が坂上と一緒に新宿二丁目へ行く展開となっており、笑えます。途中までは笑っていたのですが、日野が坂上の闇を垣間見る「誰もが闇を飼っている」ENDには少し哀しくなりました。殺人クラブの存在の虚しさも思わせる、個人的にはトゥルーエンド。本作をコンプリートするのはよほどの暇人か熱心な大ファンでなければ無理でしょうから、普通の一般ユーザーは、このエンディングを見れば、そろそろ止めてもいい頃合ではないかと思います。


システム
『送り犬』のエンディングは32種類、『殺人クラブ』のエンディングは84種類。『送り犬』と『殺人クラブ』はシステムを共有しており、双方でクリアを繰り返してプレイデータを引き継いでいくことで、シナリオ内に新たな選択肢が増えたりクリア後のオマケが増えたりします。シナリオ達成率によってCG鑑賞や音楽室などが追加され、シナリオ内のパスワードを集めることで公式サイトからオマケを入手できる仕組み。

ただし、一つのセーブデータに重ねて記録していかないとプレイデータが引き継がれないため、事実上、セーブ&ロードを駆使する通常のプレイ方法は無効。全て最初からやり直さなければなりません。吉里吉里を使っていながら、何故わざわざ機能をYuuki! Novelレベルまで退化させているのか不明。一応、各ルートの始めからプレイできるシナリオスキップ機能も用意されていはいますが、ルートに入ってからも多くの分岐があるため、大して変わりません。

数多く枝分かれしている分岐の果ての、ほんの僅かなエンディングの違いを見るためだけに、何度も何度も最初からやり直し、同じシナリオを辿る作業を繰り返す。116種類のエンディングをコンプリートするためには、116回。シナリオ達成率を全て埋めるためには、それ以上。一体何の苦行ですか?と問いたくなるほど、辛い作業です。そして、これは本来なら必要の無い作業なのです。吉里吉里なら、こんなことをしなくてもプレイデータの引き継ぎは出来るのですから。不要な労力を強いられ、浪費しなくていい時間を浪費させられている。作業による苦痛だけでなく、理不尽なことを強制される精神的なストレスもありました。

これほど過酷な繰り返しプレイを強いられるのであれば、せめて操作性くらいは快適であってほしいものですが、そちらも酷い有様です。いちいち何かにつけてウェイトがかかり、もっさりした表示でクリックもスキップも無効にされるため、スムーズなプレイが出来ずストレスが溜まりました。キーボードのショートカット操作も出来なくなっており、スキップもバックログもいちいちメニューを開いてからクリックしなければなりません。また、選択肢表示中にメニューを開けなくなっているため、選択肢が出ている間はセーブどころかバックログを確認することすら出来ません。右クリック操作も無効になっているため、メニューを閉じる操作などもいちいちアイコンにポインタを合わせてクリックしなければなりません。通常、吉里吉里ではEnterキーの長押しで既読未読関係なくスキップできるようになっていますが、本作ではこれも無効になっています。既読スキップしか無く、Enterキーの無差別スキップも封じられているため、未読扱いになっているテキストをスキップする手段がありません。ついでに音量調節もありません。恐ろしいほどにユーザーに対する心配りが見当たらないシステム……というより、ユーザーに不便なように不便なように作られているシステムです。


総評
システム以外は安定したクオリティで、良く出来た作品です。ただ、粗悪なシステムのために楽しさよりも苦痛のほうが大きくなっているのが残念でした。どんな粗悪なシステムでも忍耐強くプレイしてくれる熱心なファンだけに購入してもらいたいと製作サイドが考えているのなら、別に止めませんが、そうでないのなら、システムを根本から見直したほうが良いと思います。どんなにシナリオや絵が素晴らしくても、ユーザビリティを蔑ろにした作品を頒布し続けていれば、ユーザーは離れていくでしょう。
(2008年1月13日)


【製作HP】「七転び八転がり」 http://www.takiya.jp/78/

【絵師HP1】 送り犬 「誰彼橋」 http://www.geocities.jp/tasogare_bashi/
【絵師HP2】 柱の傷 「キタユメ。」 http://www.geocities.jp/himaruya/
【絵師HP3】 殺人クラブ 「SenKa」 http://thistle.pinoko.jp/havira/