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極超音速機:マッハ5へ挑戦 エンジン燃焼実験成功

 ◇夢の極超音速機

 マッハ5の極超音速旅客機につながる小型エンジンの燃焼実験に宇宙航空研究開発機構(JAXA)が成功した。石油の代替燃料として研究が進む液体水素を燃料にしたエンジンで、燃焼実験成功は世界初の快挙。東京-ロサンゼルス間を約2時間で飛行する夢の極超音速機を目指す開発の経緯を紹介する。【関東晋慈】

 ◆02年から開発

 極超音速旅客機エンジンの開発は02年に始まった。04年、エンジンの空気導入部分がマッハ5の速度に耐えられることと、コアエンジン部分の水素燃焼実験に成功。翌年には液体水素による予冷装置の可動実験もクリアした。

 これらの成果を受け、JAXAは05年、2025年までの長期ビジョンの中に、「マッハ5クラスの極超音速実験機で、太平洋を2時間で横断できる極超音速機の技術を実証する」ことを盛り込んだ。

 これまでの実験は初歩の段階といえる。部品を実験結果に基づき改良した上、一つのエンジンに統合して行われたのが小型エンジンの燃焼実験だ。

 実験は昨年11月7日、秋田県能代市内のJAXA実験場で行われた。小型エンジンは全長2・7メートル、高さ23センチ、正面からの幅23センチ、重さ150キロ。約100秒間の燃焼で、予冷装置とエンジンが適切に起動することを確認した。ここまでの5年間の開発費は3億円。JAXA超音速機チームの田口秀之主任研究員は「予冷ターボジェット方式の極超音速エンジンの起動に世界で初めて成功し、極超音速機の実現に一歩近づいた」と評価する。

 マッハ5の飛行におけるジェットエンジンの課題は、空気導入部からエンジンに入ってくる空気が摩擦熱のため約1000度にまで上昇してしまうことだ。このままでは、材料が燃えるなどしてジェットエンジンが作動できない。

 そこで開発チームは、非常に冷たい液体水素(マイナス253度)を燃料としてだけでなく、空気の冷却にも使う両用方式を採用した。この予冷装置をエンジンの前に置く配置上の工夫もして、飛行時の抵抗も小さくさせた。

 今後はエンジンの推進力の向上と軽量化を進めていく。より大きなモデルを使い、マッハ5で飛んだ時と同じ風圧をかける風洞実験で性能を実証していく計画だ。最初の飛行実験は今年の夏ごろに実施する予定。

 ◆欧米も研究

 極超音速旅客機の開発は欧米でも進められている。米国では米航空宇宙局(NASA)の無人極超音速実験機「X-43A」が04年、太平洋上でマッハ10近い速度に達し、飛行機の世界最速記録を達成した。この実験機はスクラムジェットエンジンを搭載していたが、これはマッハ5以上にならないと作動しない。そこで、加速時には燃費の悪いロケットエンジンを併用する必要があった。ただ、ロケットエンジンは加速が急なため、訓練を受けた人でないと乗れないという。

 一方、JAXAが燃焼実験に成功した予冷ターボジェットエンジンは、離陸からマッハ5まで連続して作動する。燃料に液体水素を利用するため、二酸化炭素を全く排出せず、環境への負担が少ないことも大きな特長だ。現在のジャンボジェット機などでは、東京-ロサンゼルス間の9時間の飛行で化石燃料であるジェット燃料約40トンを消費。約136トンの二酸化炭素を排出するという。

 予冷ターボジェット方式は、米国や欧州でも精力的に研究が進められているが、実際のエンジン開発には至っていない。

 田口主任研究員は「われわれのエンジンが極超音速旅客機の最有力候補と考えている」と自信をみせる。

 ◇東京-ロス2時間

 ◆実現には数千億円

 マッハ5の極超音速旅客機が実現すれば、東京-ロサンゼルス間は現在の約5分の1の約2時間で飛行できるようになる。

 極超音速旅客機はまず、離陸から約10分かけて加速し、高度約25キロの成層圏内に達する。現在のジェット機は高度約10キロの同じ成層圏を飛行するが、より空気抵抗の少ない上空を飛行。マッハ5に達して巡航を約1時間半続ける。その後、徐々に減速し約10分で着陸する。

 旅客機の形は、マッハ5という高速で飛ぶことによる風圧に耐えられるよう先端の面積をできるだけ小さくした。さらにエンジンなどを搭載するスペースが巨大になるため全長も長くなる。そのため定員は約20人程度になる構想だ。しかし、実現には少なくとも数千億円規模の費用がかかるという。

 JAXA総合技術研究本部の坂田公夫本部長は「90年代に一度冷めた夢物語にまじめに取り組んでいる。最も難しいエンジン開発が順調に進み、5年後には有人飛行が可能になる技術は集積できるはずだ」と話している。

毎日新聞 2008年1月13日 14時36分

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