福岡市の飲酒運転三児死亡事故で業務上過失致死傷罪などを適用した8日の福岡地裁判決は、あらためて危険運転致死傷罪の立証に高いハードルがあることを浮き彫りにした。

 同罪は(1)飲酒などの影響で正常運転が困難な状態で走行(2)制御困難な高速走行(3)赤信号をことさら無視した高速走行‐などを「故意」に行った場合に適用される。

 今回、検察側は飲酒量や目撃証言、衝突直前まで被害車両に気付かなかった運転状況などを示し「アルコールの影響で正常運転が困難な状態だったことは明らか」と主張。しかし判決は、事故前後の運転状況や、飲酒検知結果を「酒気帯び」とした警察の判断などから危険運転致死傷罪にはあたらないと判断した。

 危険運転致死傷罪の適用要件となる「故意」の立証は、内心にかかわる問題だけに、立法時から適用の難しさが指摘されてきた。実際、判例も割れている。愛知県の4人死亡飲酒事故では、1審判決は予備的訴因の業務上過失致死傷罪を適用し懲役6年を言い渡した。これに対して名古屋高裁は昨年12月、1審とほぼ同じ証拠を基に危険運転致死傷罪を適用し、懲役18年を言い渡した。

 今回の福岡地裁判決は、厳格な証拠認定に基づいた結果と言える。しかし、求刑(懲役25年)と判決(同7年6月)の落差はあまりにも大きく、被害者を二重に苦しめる結果となった。

 危険運転致死傷罪は悪質運転に厳罰を求める被害者感情に応えて新設されたが、適用基準のあいまいさなどが原因で適用見送りが続けば存在意義を失いかねない。今後、適用基準を明確にする法整備を進めるなど、議論を深める必要があるだろう。 (社会部・長田周三)

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=2008/01/08付 西日本新聞夕刊=