第19回:欧州レベルの強調によって!?

折り返し点を過ぎて大分経過しました。ゴールも間近なようです。

今回は、3つの複雑骨折の例を検討します。

原文37:Given the scope and domain of Electronic Commerce, the vast majority if not all of the issues that have been identified above could ultimately only be comprehensively addressed through co-operation among the different Member States, i.e. at the Union level.
(オリジナル訳)電子商取引の範囲と領域を考えた場合、先に明らかにした問題がすべてではないとすると、広大な大部分は結局、さまざまな加盟国間すなわち欧州レベルでの強調によって包括的に検討することしかできない。

(解説)onlyが具体的に何を修飾しているのかを判断して訳す必要があります。”if not all”の訳し方も不適切です。「...ではないとすると」ではなく、「...ではないにしても」と、譲歩節のように訳すべきです。なお、Unionはこの場合European Union(欧州連合)を意味しています。「強調」はいうまでもなく「協調」の変換ミスです(このようなケアレスミスは絶対にしないよう気をつけましょう)。
(試訳)電子商取引の範囲と領域を考えた場合、上記で明らかにした問題のすべてではないにしてもその大部分が、結局、さまざまな加盟国間すなわち欧州連合レベルでの協力によってしか包括的に扱えないと思われる。

銘打った影響!?

原文38:During the last six months, the effect labeled “the fall of the dot-coms” has changed the sentiment of the marketplace seemingly overnight, and firms have retreated to more traditional attitudes on justifying technology purchases.
(オリジナル訳)ここ6ヶ月の間、“ドットコム企業の転落”と銘打った影響は、一夜にしてうわべだけの市場に対する感傷を変え、企業は技術導入を正当と考える更なる伝統的態度を取り下げた。

(解説)オリジナル訳には構文上および訳語上の問題がいくつか見られます。"labeled"に対する「銘打った」はこの場合ふさわしい訳語とは思われません。「銘打つ」という表現は、「人目をひく」とか「立派な呼び名を付ける」という肯定的な意味で使われるのが普通であり、この場合は原文に否定的な意味合いがあるはずです(ただし、「レッテルを貼られる」とか「烙印を押される」とまで訳出する必要はないでしょう)。"seemingly"は"overnight"を修飾する副詞であるため、「うわべだけの市場に対する感傷」のような訳にはならないはずです。「感傷」という訳語もこの場合不適切で、経済分野では"sentiment"に対して「景況感」とか「心理」、「マインド」、「センチメント」などの訳語を当てることにしています。"have retreated"に対する訳語「取り下げた」も大きな誤りです。
(試訳)過去半年の間に、「ドットコム企業の没落」と呼ばれる影響のために、市場の景況感が表面上は一夜にして変化してしまい、企業は技術導入の理由付けについてこれまで以上に旧来の態度に後退してしまった。

より最適化で容易なコード!?

原文39:The addition of descriptors for ODBC 3.0 makes the ODBC API more extensible for future ODBC specification revisions or driver-specific needs, allows sharing of binding information between statements, and allows applications to keep multiple sets of bindings - all leading to more optimized and simpler code.
(オリジナル訳)ODBC 3.0用にディスクリプタを追加すると、ODBC APIはこれからのODBC仕様の改訂やドライバ仕様の必要性をより拡張性の高いものにし、ステートメント間で結びつけた情報を共有することが可能です。アプリケーションが複数のセットをより最適化で容易なコードの形で、結びつけたままにしておくこともまた可能です。

(解説)少々長めの文ですが、”The addition ... makes ..., allows ..., and allows ... - all leading to ...”という比較的単純な構造をしています。上記の訳文では、”- all leading to ...”の構文を取り違えています。この部分は、前の文を受けて、それを補足するための節です。また、”keep ... bindings”も誤訳しています。さらに、driver-specificのspecific(固有の)をspecification(仕様)と混同しており、また「より最適化で」は不自然な日本語表現です。
(試訳)ODBC 3.0のディスクリプタを追加すると、ODBC APIは今後のODBC仕様の改訂やドライバ固有のニーズに対してより拡張性の高いものとなり、ステートメント間でのバインド情報の共有が可能となり、アプリケーションは複数のバインド・セットを持つことができ、その結果コードはより最適化され、単純なものになります。

上記の例には不自然な訳文表現が見られますが、第10回でも述べましたように、常日頃から平明で自然な訳文を心掛ける必要があります。ここで参考までに、過去のトライアル試験の答案から(回答者には申し訳ありませんが)ランダムに不自然な訳文をピックアップしてみます。中には大きな誤訳や不適切な訳、ケアレスミスも含まれていますが、どこが特に不自然なのか皆さんなりに考えてみてください(試訳はあえて示しません)。

原文:In this spread there were two moments of crucial importance.
オリジナル訳:この広がりで、決定的な重要性の2つの時期があった。

原文:Its own nuclear power program had already gone from orders to cancellations.
オリジナル訳:自身の原子力プログラムは既に取り消しへの体制から外れてしまった。

原文:Many of the concepts and applications which were to prove so successful later date already from that time.
オリジナル訳:後でそれほど成功したと判明することになっていた概念と適用性の多くは、すでにその時間から時代遅れになっていた。

原文:The history of computing, and indeed of many other high-tech industries, has highlighted developments in two complementary directions.
オリジナル訳:コンピュータの歴史、いわば多数のハイテク産業の歴史ともいえるが、に明確にあらわれてくるのは2方向へのむかう補完的な開発である。

原文:Unlike an investment in the stock market, the underlying value of technology as a mechanism for leveraging a business process is not lost as market factors rise and fall.
オリジナル訳1:株式市場と異なり、ビジネスプロセスにてこ入れする為のメカニズムとしての基本的なテクノロジーバリューは、市場要因の騰落のようには損失されないからである。
オリジナル訳2:株式市場への投資とは違って、ビジネス プロセス活用のメカニズムとしての技術的基礎を成す価値は、市場要素の出現と崩壊のような失われかたはしません。

原文:Customers expect a higher level of performance at a price point that is defined by the market and that reflects a value proposition palatable to market conditions.
オリジナル訳:顧客は高レベルの働きを市場が決めた値で手に入れようと考え、それが市場の状態に見合った価格の定義に影響を与える。

原文:The three years of uncertainty about the future had wiped away further prospects for private investments in the nuclear fuel cycle.
オリジナル訳:エネルギーの将来のためにおこなってきた3年もの間、核燃料サイクルの研究開発に対して民間投資されてきたが、多くの可能性が拭き去られてしまった。

原文:Fortunately for technology vendors, many of these projects required infrastructure to support multiple technologies and facilitated additional infrastructure purchases.
オリジナル訳:幸いにも技術製造業者にとってはこれら多くの事業は幾つものテクノロジーを保持してさらにインフラの歳出を促進するインフラ歳出の付加を求められた。

原文:As a result of the dot-coms phenomenon, funding for individual projects now elicits closer scrutiny, restricting an organization’s ability to react to changing market conditions.
オリジナル訳:ドット・コム現象の結果、今や、個々の事業へ資金を供給することは、日々変化する市場に反応する組織の能力を制限するような、より精密な精査を招いてしまう。

原文:In Europe, great hope is obviously being placed in the forthcoming liberalized telecoms market, which will come into effect in most countries of the Union next year, but the speed with which this change really will increase competition and decrease prices remains to be seen.
オリジナル訳:ヨーロッパでは、大きな希望は明らかにこの次の制約を解かれたテレコミュニケーション市場(それは来年ユニオンの大部分の国で実施される)に置かれているが、本当に競争と減少価格を増やすこの変更と共に速度が見られるべきである。
(注:これは、第13回で取り上げた原文26と同じものですが、訳文は異なります。)

原文:The phenomenon labeled “the rise of the dot-coms” provided a convenient justification for investments in technology based on expanding market share, connecting to the customer, maintaining parity with competitive offerings and facilitating a growth agenda.
オリジナル訳:いわゆる“ドット・コムの興隆”とのレッテル付きのこの現象は、マーケット・シェアの拡大、顧客との結びつき、競争力付きでオファーされたものとの均衡の維持および膨らむ日程の促進をベースにする技術への投資に対する手軽な理由を提供してくれた。

一見して不自然さが明確に分かるものが多いと思います。このような訳文にならないよう、訳出に当っては細心の注意を払うよう努力してください。

さて、次回はいよいよ最終回となります。もうひと踏ん張りです。頑張りましょう。

2005年10月17日