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イタリア発アモーレ!モトーレ!

物価高騰の折り、韓・中SUVが続々上陸

2007年12月14日

■愛車は「ソレント」

写真ジャンニさんと起亜ソレント
写真室内は彼の生活感が溢れている
写真オーディオは独ベッカー製を奢った
写真初めての欧州組み立て中国車『DR5』
写真サンタ衣装も、きっと誰が買うのであろう

 イタリアも物価高が続いている。今年は一家庭あたり、前年比で平均1216ユーロの支出増であるという(消費者団体アドゥスベフおよびフェデルコンスマトーリ調べ)。

日本円に換算すると約19万円である。19万円ですよ。ボクなどは、日本から森永卓郎氏の本を取り寄せようと本気で考えているところだ。

 そんなイタリアで活況を呈している店といえば、全国チェーンのリサイクルショップである。今の季節は、クリスマス用品を探す人々で溢れかえっている。

 ジャンニ・ビンディさんは、我が家が行きつけにしているリサイクルショップの店長である。彼の店もこの季節は、連日大盛況である。

 ジャンニさんの愛車は、韓国・起亜製のSUV『ソレント』だ。イタリア南部の都市ソレントはSorrentoだが、このクルマはSorentoと書く。

 「帰れソレントへ」の歌声が天から聞こえたかどうかは知らぬが、数年前フォード・モンデオから乗り換えた。今日までに、すでに10万kmを共にした。

■汚せるSUV

 ソレントで不満なのはインテリアの仕上げだという。とくにステアリングのグリップはすぐボロボロになってしまい、すでに1度交換した。ただし全体的には大満足であるという。

 ジャンニさんの仕事は、物を載せる機会が多い。イタリアのリサイクルショップで扱う品には、大きなアンティーク家具やワイン数ダースなど、何かと嵩張るものが多い。そうした物を、どこにでも引き取りに行かなければならないのだ。

 また夏休みには、一緒に働いている夫人の故郷・南部プーリアへの往復1300kmもこなさなければならない。

 そうしたライフスタイルには、豪華な内装で汚せないような日本製SUVよりも、韓国製SUVのほうがぴったりなのである。そして、ジャンニさんは付け加えた。「なにしろ安かったんだよ」

 イタリアでソレント2.5リッター・ターボディーゼルは3万1000〜3万3000ユーロ台だ。対してトヨタ・ランドクルーザーの3リッター・ターボディーゼルが4万ユーロ以上する。単純に価格で比較すれば、確かにお買い得である。

 ジャンニさんは、いくら人気店の経営者とはいえ、財布を“締めて”かかっている。少し前、家主から現在の店舗の買取りを打診されたのだ。提示額は、昨今の不動産価格高騰の影響で、円にして1億円以上だという。もちろん、毎月のフランチャイズ料も本部に払わなければならない。そんな中、少しでも安いことは大切な要素なのである。

■中国メーカーがイタリアで生産

 イタリア自動車工業会発表の月間登録台数でみると、韓国製SUVは一番売れているヒュンダイの『トゥクソン』でさえ422台だ。1000台ペースで売れている日産キャッシュカイやトヨタRAV4に一桁及ばない。

 ただしイタリアには、ジャンニさんのようにSUVをファッションではなく、スポーツ・ユーティリティ・ヴィークルの名前のとおり道具として徹底的に乗りこなしている人が多い。 手頃かつ、そこそこスタイリッシュな韓国製SUVは、一定の支持を得ているのだ。

 いっぽう11月、中国・奇瑞製をベースにしたSUVの組み立てが、なんとイタリアで開始された。中国車初の欧州現地生産である。

 エンジンはガソリン仕様が奇瑞製、ディーゼルがフィアット・パワートレイン製である。

 駆動方式が4駆ではなく2駆であったり、ソレントなどより一回り小さめであることもあって、2万ユーロ台の値札が付くという。専売ディーラーでなく、まずは大手スーパーマーケット・チェーンを通じて、クリスマスの目玉商品として売り出されることでも話題を呼んでいる。

 現在のところボクの周囲で、中国車に興味があるというドライバーはいない。だが、冒頭のように諸物価高騰の昨今である。それなりの需要が掘り起こされるのではないか、とボクは読んでいる。

 おっと、ボクも節約節約。少しでも小銭を稼ぐべく、ジャンニさんの取材ついでに洗濯干しハンガーを持参した。以前日本から買ってきたものの、使わず押し入れに眠っていたものを女房に持たされたのだ。

 ジャンニさんが値札を付けると、脇で眺めていたご夫人がさっそく手にとった。すかさずボクは「奥さん、これ便利よ。日本直輸入!」とボクはデパートの実演販売のごとく畳み掛けた。するとご夫人は、「それ頂くわ」と買ってくれた。

 カレー屋さんでインド人が調理していると妙においしく見えるが如く、日本人が家庭用品を薦めると、何か便利に見えるのかもしれない。

 他のアジア製SUVが次々とイタリア上陸を果たすなか、日本製SUVもこんなふうに簡単に売れてくれるといいのだが……。

プロフィール

大矢アキオ Akio Lorenzo OYA
 歌うようにイタリアを語り、イタリアのクルマを熱く伝えるコラムニスト。1966年、東京生まれ、国立音大卒(バイオリン専攻)。二玄社「SUPER CAR GRAPHIC」編集記者を経て、96年独立、トスカーナに渡る。自動車雑誌やWebサイトのほか、テレビ・ラジオで活躍中。
 主な著書に『イタリア式クルマ生活術』『カンティーナを巡る冒険旅行』、訳書に『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(いずれも光人社)。最新刊は、『Hotするイタリア―イタリアでは30万円で別荘が持てるって?』(二玄社)。

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