現在位置:asahi.com>愛車>イタリア発アモーレ!モトーレ!> 記事 闇夜のハンバーガー2007年10月12日 ■数は日本の10分の1
イタリア人はハンバーガーのことを「アンブルゲル」と言う。伊語の原則にしたがって、最初の「h」を発音せず、以降もコテコテに読むとそうなるのだ。 伝統的イタリア人は、大手外食チェーンのハンバーガーを粗食の代表のごとく語る。しかし、ボク自身はそうは思わない。いつ、どこの店に行っても同じ風味と一定の品質を、それも低価格で提供するのは、れっきとした技術である。自動車にたとえて言えば、20世紀モータリゼーションの幕開けを担い、世の中の生産方式さえ変えてしまったT型フォードに値しよう。 現在、イタリアでは複数の米国系ハンバーガー・チェーンが店舗を展開している。ただし、その代表であるマクドナルドがこの国に上陸したのは、20年前の1985年だ。日本の1号店開店が1971年だから、14年のタイムラグがあったわけである。 そのマクドナルドは、ちょうどボクがイタリアに住み始めた1996年に既存の民族系ハンバーガー・チェーンを買収することにより、イタリアにおける店舗数を一挙に増やした。それでも今日、店舗数は約340店に過ぎない。隣国フランスの1985店よりかなり少ない数字だ。ましてや日本の3828店(2006年)からすると、10分1以下である(データはいずれも各国のマクドナルドのホームページより)。 ■のどかなドライブスルー いわゆるドライブスルーも、大都市を除いてまだまだ浸透していない。設置された店も日本と少々“作法”が違う。 たとえば、日本ではまず注文用マイクがあるが、イタリアではちゃんと注文用窓口がある。ただし従業員数を絞っているためか、稼動していない店のほうが多い。したがって、ドライバーはその前方にある2番目の窓口まで進んで直接注文し、同じ窓口で商品受け取りもする。 さらに日本と違うのは、「おーい!」と呼ばないと店員が窓口まで出てこない店があることだ。また見ていると、オーダーを受けた従業員は自ら一回一回、商品を奥まで取りに行く。日本の外食チェーンのような切羽詰った慌しさはない。 利用するドライバーがまだまだ少ないから、そのような手順やペースでも十分大丈夫なのだろう。 ■できるか、30kmの我慢 それでもわが街のハンバーガー店は、地道な広告宣伝をしている。それも、日本ではなかなかお目にかかれない手法だから面白い。 まずは道端の看板である。しかし、驚くべきは店舗と看板の距離である。たとえば今回撮影した看板は、最寄りの店舗があるボクの街から30km離れているところに立っていた。 30kmもあると、せっかく看板を発見しても運転しているうちに心変わりしてしまうドライバーも多いのではないかと思われる。 参考までに、ボクが撮影したのは午前0時過ぎである。闇夜の中、空腹の果てに看板を発見しても、そこから30kmはかなりきつい。そもそもイタリアのマクドナルドの大半は深夜営業をしていない。 そのようなことから、「今度、街に来るときがあったら寄ってネ」というサインと見てあげるのが正しいだろう。 加えて、ボクが聞いた話では、オーストラリアには「次のマクドナルドまで○百km」という看板があるという。それからすれば、目と鼻の先のようなものと納得すべきなのかもしれない。 ■3輪トラックまで動員 もうひとつは、ずばり「駐車3輪トラック」を使った広告である。ほかのイタリアの中規模都市同様、シエナの旧市街は住民以外の4輪車進入禁止だ。しかし、2輪車ならだれでも入ることができる。小さな3輪トラックは法律上2輪車と同じ扱いなので、進入だけでなく駐車もできる。 そこで、荷室の外側に広告を貼り付けて駐車しておくことで、即席看板にしているのである。実際は専門の広告代理店によるものだが、なかなかのアイデアだ。 唯一の心配は、矢印を記してしまっている以上、停め場所や方向が限られて苦労するだろうな、ということである。写真の3輪トラックは、店舗から徒歩約10分のところに置いてあったものだが、死んでも店に頭を向けて駐車しなくてはいけない。 また、ボクなどは日本人ゆえに、「置いとくだけじゃなくて、ついでなら3輪トラックでハンバーガーも売ってくれよ」と欲張ってしまう。移動弁当販売車に慣れた悪い癖だ。 最近は徐々に、イタリアのハンバーガー・チェーン店もお客が増えてきた。新しい食べ物に抵抗がない世代が増えてきたのだ。 同時に相対的な価格の安さもある。店によってはピザ1枚でも円換算して1000円近くするようになった昨今、同じくらいの値段で飲み物まで付いてテーブルチャージも要らないハンバーガーセットは、お得なのである。ましてや大家族になれば、その有り難味はさらに増す。 願わくば、あの闇の中の看板や、3輪トラックを見てやってきたお客がいるといいのだが。 プロフィール
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