走行中のバスのドアはなぜ開いたのか‐。東京外環自動車道でサッカーチームのマイクロバスから埼玉県ふじみ野市立東原小5年の吉崎健君(11)が転落、トラックにひかれて死亡した事故。同型のバスを検証した専門家はわずかな力でドアが開くことを指摘、走行中に席を離れる危険性を訴えた。

 「カチャリ」。人さし指1本でドアノブに触れると、ドアは小さな音を立てて簡単に開いた。車の安全対策に詳しい「くるま総合研究会」の相川潔代表(62)が同型のトヨタ・コースター(29人乗り)を検証した。

 ドアは自動開閉モードにしていれば、運転席からしか開閉操作ができない。しかしバスを運転していたコーチ引地功一容疑者(33)=自動車運転過失致死容疑で逮捕=は切り替えを忘れ、事故当時は手動モードでドアロックも解除されていた。

 検証の結果、手動モード時には、わずか2キロ弱の力でドアのノブが動くことが、バネばかりによる計測で判明した。

 ドア付近は車内床面から30センチ低いステップになっていた。ノブはステップから約85センチの高さ。事故直前、吉崎君がステップにいたのを目撃したチームメートがいた。

 吉崎君の身長は150センチ弱で、立っていればノブは腰付近の高さだ。しかしノブは幅2センチ、長さ10センチと小さく、ドアの内張りと同色で目立たない。相川さんは「体か服が誤ってノブに引っ掛かったのではないか」と指摘する。当時、バスは約70キロで走行。相川さんによると、この速度でドアが少しでも開いた場合、風圧で一瞬のうちに全開になるという。吉崎君がドア側に体を預けていたとすれば、ドアが開くと同時に路上に投げ出された可能性が高い。

 運転席からルームミラー越しにドア付近を見ると座席の死角になってほとんど見えない。しかし吉崎君の座っていた2列目の座席は、運転席の左後方約70センチの近さ。相川さんは「ちゃんと座っているか注意が必要だった。走行中の車内を立ち歩くのは極めて危険なのだから」と吉崎君が席を離れるのを防げなかったことを残念がった。

=2007/12/28付 西日本新聞朝刊=