防衛省が防衛庁から昇格して丸一年が過ぎた。本格的な政策官庁への脱皮といった思惑とは裏腹に、不祥事が相次ぐ大荒れの一年に終わった。
不祥事の最たるものは、四年余り事務方のトップに君臨した守屋武昌前防衛事務次官の防衛装備品調達をめぐる汚職事件だ。防衛商社「山田洋行」元専務との癒着問題で昨年十一月、東京地検特捜部が収賄容疑で守屋前次官を逮捕し、防衛利権をめぐる刑事事件へと発展した。約二十七万人を擁する巨大組織に与えた影響は計り知れない。
これに先立つ十月には、二〇〇三年二月に海上自衛隊補給艦が米艦に給油した量が訂正された問題に関し、当時の海上幕僚監部課長が間違いを隠ぺいしていたことが判明、文民統制(シビリアンコントロール)に不安を残した。
さらに十二月にはイージス艦中枢情報の資料流出で海自三佐が逮捕されたほか、防衛省が情報収集を主目的とする報償費の多くを架空の領収書を使って裏金化していた問題も明らかになった。国の安全保障をつかさどる組織としての信頼は地に落ちたというほかあるまい。
大臣もよく代わった。初代防衛相の久間章生氏は原爆投下を「しょうがない」と発言し、昨年七月に引責辞任した。後任の小池百合子氏は守屋前次官と人事構想をめぐる対立の末、内閣改造で高村正彦氏と交代した。現在の石破茂防衛相は四人目である。
内閣府の外局だった防衛庁の省昇格は、一九五四年に防衛庁と自衛隊が発足した直後から関係者の悲願だった。省昇格に伴い付随的任務とされていた自衛隊の海外活動は本来任務に格上げされた。
しかし、米中枢同時テロを受けて二〇〇一年十二月からインド洋で給油活動に従事していた海自艦船は、昨年七月の参院選で野党が過半数を占める「ねじれ国会」の出現で根拠法が失効し、同十一月に撤収した。活動再開を目指して政府が国会提出した新テロ対策特別措置法案は、衆院再議決により十一日に成立の見通しだが、給油活動の中断で日本は国際的に「一歩後退した」との声もある。
不祥事続発を受け、首相官邸の有識者会議は二月中に防衛省改革の中間報告をまとめる。ポイントは装備品調達の透明化、文民統制の徹底、厳格な情報保全体制の確立の三項目に絞られる。石破防衛相はその方向性を踏まえた上で、装備品調達や組織改革案を早急に策定するという。この際、うみを徹底的に出し切るとともにチェック機能を強化し、防衛行政の立て直しに全力を挙げるべきである。
住宅や工場などで使う耐火材や不燃材の性能が偽装された問題を受け、国土交通省が過去に国交相認定を受けた同種の建材約一万四千件を調査したところ、四十社の製造した七十七件が、申請と違う仕様で試験を受けたり、認定と違う仕様で販売されていた。
いずれも壁や天井に使う建材で、各社は申請後に材料や塗料の量を変えて試験を受けたり、認定時と違う材料を使うなどして販売していた。うち一件は基準性能を満たしておらず、国交省が認定を取り消し、岡山県二棟、広島県八棟、香川県四棟など全国で五十棟が改修される。
耐火建材の性能は場合によって命にかかわる。先に問題化したニチアスや東洋ゴム工業だけでなく、多くのメーカーが大臣認定と違う、性能が劣るかもしれない製品を出荷していたことに驚く。まだ報告していない社もあり、調査の最終結果が心配される。
認定取り消し以外の製品は再試験して性能を確認する。性能的に問題ないものもあるようだが、認定を受けたのと同じ製品を売るのが当然で、メーカーのずさんさが浮き彫りになった。改良のための変更でも試験は受け直すとの認識に欠けていたと陳謝したトップもいる。まず企業内部の意識転換が求められる。
しかし、ずさんさをまかり通らせていた認定制度自体の問題も考えねばなるまい。裏を返せば申請内容との違いに気付かず認定し、また認定後の仕様変更も見抜けなかったといえるからだ。
国交省は市場での建材の抜き打ち検査などの対応策をとるという。厳密な試験の実施や、国交省も検討中の抜き打ち検査の制度化などにより、消費者が信頼できる認定制度にする必要がある。
(2008年1月11日掲載)