◇議長府を初訪問
【ラマラ(パレスチナ自治区ヨルダン川西岸)笠原敏彦】ブッシュ米大統領は10日、ヨルダン川西岸ラマラのパレスチナ自治政府議長府でアッバス議長と会談した。会談後の共同記者会見でブッシュ大統領は、パレスチナ和平交渉について「私の退任(来年1月)までに平和条約が調印されるだろう」と述べた。そのための「困難な選択」をパレスチナ、イスラエルの双方に促し、パレスチナ側には「国家か、現状維持か」と選択を迫り、治安対策の強化などを求めた。
米大統領のパレスチナ訪問はクリントン前大統領がガザ地区と西岸ベツレヘムを訪れた98年以来。ラマラの議長府訪問は初めてで、イスラム原理主義組織ハマスと対立する穏健派のアッバス議長を支援する姿勢をアピールした。
アッバス議長は会見で「我々に大きな期待を与える歴史的訪問だ」とブッシュ大統領の訪問を歓迎した。しかし、厳戒態勢が敷かれたラマラの街中には一般住民の姿がなく、「住民不在」の歓迎だった。
ブッシュ大統領は9日のオルメルト・イスラエル首相との会談も踏まえ、「(イスラエル、パレスチナ)両首脳とも民主国家が共存する重要性を理解している。交渉を急ぎたい気持ちがある」と指摘した上で、パレスチナ国家の輪郭などを含む平和条約の任期中の調印に自信を示した。
しかし、オルメルト首相はブッシュ大統領との共同会見で、ハマスが実効支配するガザ地区からの対イスラエル攻撃の停止も和平交渉推進の前提条件だと明言した。自治区を分断したまま和平交渉を進めることの有効性を疑問視する声も強い。
これに対して、ハドリー米大統領補佐官(国家安全保障担当)は9日、2国家共存に向けてパレスチナ国家の将来像を示し、まず西岸で経済活動などを活発化させれば、ガザ住民はいずれハマス支配と民主的体制の間で選択を迫られるとの展望を示した。
ブッシュ大統領のラマラ訪問はこの「西岸先行」構想を後押しする意味を持つ。昨年6月にハマスがガザ地区を武力制圧したパレスチナは、「穏健派」を支援して「過激派」を封じ込めるブッシュ大統領の対テロ戦略の主戦場でもあり、米国はアッバス議長への支援を強化している。
◇狙撃兵200人配置、議長府周辺厳戒
【ラマラ共同】ブッシュ大統領が訪問したラマラでは10日、訪問に反対する過激派のテロや住民のデモに備えて厳戒態勢が敷かれ、イスラエル放送によると、アッバス議長との会談が行われた議長府周辺には米治安当局の狙撃兵約200人が配置された。
ラマラでは、大統領訪問に反対するグループが「ラマラから出て行け、イスラエルに占領をやめさせろ」と叫んだが、短時間で自治政府の治安部隊が解散させた。
一方、ハマスが支配するガザ地区では同日未明、英語授業を行っている「アメリカンスクール」にロケット弾が撃ち込まれ、建物の一部が壊れた。
毎日新聞 2008年1月11日 東京朝刊