脂肪(又は油脂)は食肉動物(ウシ・ブタなど)の常温固形・飽和脂肪酸と、植物種子(ゴマ・シソの実など)の常温液体・不飽和脂肪酸に大別されます。魚介類の油脂は動物性ですが、不飽和脂肪酸の場合が多く、人体の生理機能にも大きな役割を果たします。
いま社会問題となっている「メタボリック症候群」の原因物質は常温固形の飽和脂肪酸、つまり食肉であることを再確認することが必要でしょう。
昭和28(1953)年ごろの血液生理学教室時代、医学生の血清コレステロール値を測定した事があります。コレステロールの測定がまだ一般的ではなかった時代で、生化学教室の指導を得ながら慎重に検査を試みました。その結果、被験者10人の測定値はいずれも120~145ミリグラム/デシリットルでした。今では考えられない低値です。それは食肉その物が入手不能の時代だったことを反映しています。
「メタボリック症候群」の元凶と目されている食肉中の飽和脂肪酸は悪玉のLDL(低比重)コレステロールや中性脂肪などを確実に増やします。そして糖尿病、動脈硬化、心筋梗塞(こうそく)、脳卒中などを確実に多発させます。
悪玉LDLコレステロールを減少させるための最有力手段は植物性不飽和脂肪酸の摂取でしょう。とりわけ<n-6系列>と呼ばれる小麦胚芽(はいが)油、紅花油、綿実油などのリノール酸にコレステロール低減作用が見られます。最近はシソ油やエゴマ油、アマニ油などの<n-3系列>のα-リノレン酸が注目を集めています。
不飽和脂肪酸である魚介類油脂中の代表的な脂肪酸がDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)です。
北極海沿岸に住むイヌイットには欧米人に多発している血管・心臓病が皆無である現象の主役として、これらの脂肪酸はにわかにクローズアップされました。DHAやEPAは<n-3系列>のα-リノレン酸の仲間で、血管・心臓病発症要因を消去せしめていたのです。<国際自然医学会会長、医学博士>(次回は1月26日)
毎日新聞 2007年12月29日