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2008年1月11日

◎七尾市の応札ゼロ 脱談合へ仕方ない多少の混乱

 能登半島地震の復旧工事をめぐる談合事件を受け、七尾市が一般競争入札の対象を拡大 した後に応札ゼロが続いたのは、「脱談合」へ向け、自治体が乗り越えねばならない一つの壁と言えるかもしれない。他の自治体でも今後、一般競争入札の拡大に伴い同様のケースが想定されるが、多少の混乱が生じたからといって入札制度改革を後退させてはなるまい。

 今回の事件が物語るように自治体発注工事めぐる談合は依然として根強く、そうした悪 しき体質を一掃するにはかなりの時間を要する。制度が変わる過渡期で入札不成立のような事態が生じるのはやむを得ず、それは競争性、透明性を高める制度を定着させるための「産みの苦しみ」と考えることもできる。自治体はあくまで一般競争入札の拡大を目指し、新たな制度の周知徹底や入札要件の見直しを進めてもらいたい。

 七尾市は談合防止策として一般競争入札の対象を三千万円以上から、県内の自治体では 最も低い五百万円以上に拡大した。変更後に初めて実施した先月末の一般競争入札六件の平均落札率は80・24%となり、早速、効果が表れた。続けていけば落札率が限りなく100%に近い入札もあった不自然な状況も改善されるだろう。

 今月八日の一般競争入札で二件が応札ゼロとなったのは、指名競争に慣れた業者の戸惑 いや一般競争入札の周知不足、業者がたたき合いを避けたなどの見方が出ている。入札が成立せず、工事の遅れを危ぶむ声も出ているが、再入札で指名競争に変えたり、随意契約にすることは、事業の緊急性、重要度との兼ね合いで慎重な判断が求められるだろう。

 一般競争入札の拡大により、全国的に応札なしや参加業者が極めて少ない入札が増えて きた。応札が見込めないとして、指名競争入札を復活させる自治体もある。一般競争入札を実施しても、競争性が確保されなければ制度の意味は薄れることも確かである。

 だが、予定価格が工事の実態に即しているか常に点検する必要はあるとしても、参加を 促すという理由だけで予定価格をいたずらに引き上げていいはずがない。入札要件の見直しなどを含めた制度的な改善を進めることで、談合しにくい制度の定着を図ってほしい。

◎対テロ新法成立へ 再決議はやむを得ない

 政府の新テロ対策特別措置法案が参院で否決された後、衆院で再議決され成立する運び となった。衆院の三分の二以上の賛成で法案を再可決するのは異例のことであるが、衆参両院の意思が異なるねじれ国会ではやむを得ない。憲法の規定に基づく正当な措置であり、直近の国政選挙である先の参院選の民意にそむくといった批判は必ずしも当を得ない。

 国会が分裂して国の意思決定ができなければ、日本の国際的な信認度まで傷つけること になりかねない。衆院での再議決はそうした事態に備えた憲法のルールであり、乱用しては国会審議の意義を失わせる恐れもあるが、それを行使するにはばかることはなく、むしろ通常の手続きであると認識しておきたい。

 対テロ新法案が成立すれば、インド洋でテロ防止の海上阻止行動に当たる米英やパキス タンなどの艦船への給油活動が再開される。この活動は、国際社会が結束して取り組むテロとの戦いで日本が行える有効な国際貢献活動といえる。海自の活動再開は同盟国の米国だけでなく、アフガニスタンでの対テロ作戦に参加する多くの国々に歓迎されよう。

 それにしても、対テロ新法案の成立に時間がかかり過ぎたと言わざるを得ない。与野党 とも次期衆院選に向けた損得勘定を優先し、本質的な議論を十分しないまま審議時間を空費した印象が強いのである。

 与党は参院で首相問責決議案が可決されて衆院解散・総選挙に至ることを恐れ、腰が定 まらなかった。世論を気にして、衆院での再議決に踏み切るかどうか迷いながらの国会運営だった。民主党は防衛省の疑惑追及やイラクからの空自撤退法案を優先して、対テロ新法案の審議引き延ばしを図った。民主党が独自の対案を参院に提出したのは国会が再延長されてからで、アフガニスタン復興支援に対する同党の本気度を疑わせた上、政府案と対案の処理をめぐって最後まで右往左往した。

 対テロ新法の期間は一年であり、政府・与党は引き続き、自衛隊の海外派遣の恒久法制 定をめざしている。これまでのような政局重視の対応ではなく、日本の国際貢献活動の根本的な議論を今度こそしっかり行うよう与野党に求めたい。


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