国内でハンドボールがこれほど注目を集めたことがあっただろうか。国際ハンドボール連盟(IHF)は10日、北京五輪アジア予選をIHFの管理のもと、東京でやり直すことを決めた。昨年の予選を主催したアジア・ハンドボール連盟(AHF)は再試合を拒否しており、予断を許さない状況だ。
昨年の予選は男子が9月に愛知県豊田市で、女子は8月にカザフスタンで行われた。男子はクウェート、女子はカザフスタンが優勝し、五輪出場権を得たが、白紙に戻される。
アジアのハンドボール界では、以前から「中東の笛」という言葉が日本や韓国など東アジアの国々の間でささやかれていた。AHFのアーマド会長を擁するクウェートをはじめとする中東諸国との試合は近隣国の審判が担当し、中東諸国寄りの偏った判定をすることを指した言葉だ。
男子予選を主管した日本協会は、審判を巡るトラブルを回避するため、欧州から審判を招いていた。ところが韓国対クウェート戦では試合直前にAHFは予定していた欧州審判からヨルダンの審判に差し替え、日本対クウェート戦もイランの審判に変更された。
両試合ともクウェートに有利な「疑惑の判定」が続出。スタンドからペットボトルが投げ込まれるなど審判に対する抗議が相次ぐ騒ぎになった。
大会後、日韓両国協会は疑惑が持たれるシーンをDVDにまとめ、IHF役員や国際オリンピック委員会に送り、今回の予選が審判の不公正なジャッジのもとで行われたことを訴えた。IHFも「中東の笛」の存在を認めたことになる。
審判の公正さが保証されていなければスポーツは成り立たない。「ハンドボールというスポーツの尊厳を守りたかった」(市原則之日本協会副会長)という日本の主張は理解できる。
ただ、問題がないわけではない。「中東の笛」が長年にわたりささやかれていたのなら、審判の技術を向上させ、不明朗さを排除する努力をアジアのハンドボール関係者はどれだけ重ねてきたのだろう。
五輪予選という注目の集まる大会で上部団体に「証拠」を送りつけて事態の改善を図る手法は、スポーツ人としてほめられたやり方ではない。まして、やり直し大会の開催地に、中立国ではない日本が名乗りを上げたのは疑問が残る。
アーマド会長はアジア・オリンピック評議会の会長でもある。今回の問題の処理を誤ると、中東対東アジアの対立がハンドボールにとどまらず、アジアのスポーツ界全般に深刻な亀裂を残す危険性もはらんでいる。
AHFには冷静な対応が求められるし、日韓両協会も中東のスポーツの仲間を必要以上におとしめ、追い詰めることがないよう、配慮する必要がある。
毎日新聞 2008年1月11日 0時16分