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2008年01月10日(木曜日)付

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党首討論―座布団を飛ばしたい

 いよいよ千秋楽、結びの一番。東西の横綱が土俵に登り、さあ激突……。そう期待した人たちは、思わず座布団を投げたくなったのではないか。

 この国会が始まって122日目。やっと福田首相と小沢民主党代表の初の党首討論が実現した。なのに、その内容はがっかりするほど低調だった。その一番の責任は小沢氏にある。

 45分間の討論の最初の3分の2を費やして、小沢氏がとりあげたのは「宙に浮いた年金記録」の問題だった。

 この問題が、国民の暮らしと安心に直接かかわる重要テーマであることはいうまでもない。小沢氏にすれば、今月中旬からの通常国会で政権を解散・総選挙に追い込むための最大の攻め口と意気込む思いもあるのだろう。

 だが、再延長された国会も最終盤のいま、小沢氏には何をおいても首相にただすべき別のテーマがあったはずだ。インド洋での海上自衛隊の給油活動を再開するかどうかの問題である。

 たしかに最後の10分あまり、小沢氏は給油問題をとりあげ、「政府はどういう原則で自衛隊を派遣するのか。憲法解釈も含めて聞きたい」とただした。

 給油活動は「憲法違反」というのが小沢氏の持論だ。「憲法を持ち出すまでの話ではない」という首相との論戦をじっくり聞きたかったが、小沢氏は「時間がないので次の機会に」と繰り返し、議論を深めようとしなかった。

 とりわけ残念だったのは、年末に民主党が参院に出した対案について、小沢氏がひとこともふれなかったことだ。

 民主党は政府の給油新法になぜ反対なのか。アフガニスタンへの民生支援に重点を置く対案のどこが、なぜ優れているのか。民主党が考える日本の貢献のあり方を主張し、政府案との違いを訴えるべきだった。それでこそ、政権を目指す責任政党といえるのではないのか。

 新法が参院に送られてから明日で60日がたつ。参院での可否にかかわらず、与党は今週末、衆院の「3分の2」の多数で再可決する腹を固めている。半世紀ぶりの出来事になる。

 そのぎりぎりのタイミングで、頓挫したとはいえ2カ月前には大連立で合意した両党首がどう切り結ぶのか。国民の視線が集まるクライマックスだった。それが形ばかりの論戦で、まともにぶつかろうとしないまま終わってしまった。興ざめもいいところだ。

 民主党内には、政府案に賛成を公言したり、党の対案に違和感を漏らしたりする議員もいる。対案はほかの野党の賛成を得られず、新法と対案をともに参院で継続審議にするという作戦も練り直しを余儀なくされた。

 この大詰めの時期に、民主党はどうにも迷走気味である。こうした事情が給油問題に対する小沢氏の弁舌を鈍らせたとすれば、民主党の政権担当能力を疑わせる深刻な事態だというほかない。

米大統領選―オバマ氏で盛り上がる

 薄氷を踏むような勝利で、本命が立ち直るのか。それとも、オバマ・ブームが続くのか。

 米大統領選の候補者選びが、出だしから熱を帯びている。ニューハンプシャー州の民主党予備選は、接戦の末、ヒラリー・クリントン氏がバラク・オバマ氏に雪辱した。

 抜群の知名度と組織力を誇るクリントン氏は民主党の本命とみられてきた。3位に終わったアイオワ州に続いて敗れていたら、致命傷になるところだった。

 「私を復活させてくれた」と、満面の笑みを浮かべて支持者に感謝した。女性の支持を固めたのが勝因、とメディアは伝えている。

 経験と実績をアピールして「自分なら大統領になったその日から仕事ができる」と訴えてきた。だが、苦境に立たされて涙を浮かべるなど、いちずな挑戦者に戻ったことが共感を呼んだようだ。

 勝利を逃したオバマ氏だが、その勢いは本物だ。

 ケニア人を父に、白人を母に、ハワイで生まれて、ジャカルタで育った。ハーバード大卒のエリート弁護士でありながら、貧困地域の住民運動に飛び込んだ。上院議員に当選するまでの異色の経歴はアメリカン・ドリームそのものだ。

 クリントン、ブッシュ両政権では激しい党派攻撃の応酬が続いてきた。これに対して「共和党カラーの赤い州も、民主党カラーの青い州もない。あるのは合衆国だけだ」と繰り返し、「対立や分断を乗り越えよう」と語りかける。

 「フセイン」というミドルネームも逆手にとって、「変な名前の黒人だから立候補なんて無理だといわれた。しかし、違った。君たちのおかげだ」。こんな前向きのメッセージが、既成の政治に飽き足らない若者たちを熱狂させてきた。

 これからは「変化」の具体的な中身が問われることになる。勝利の可能性が現実になるにつれて、有権者の視線も厳しくなるだろう。

 復活が起きたのは、共和党も同じだ。勝利したマケイン氏は知名度は高いが、失速しかけていた。それが今回の勝利で息を吹き返した。

 一方、組織力で先行していたロムニー氏は、アイオワ州に続いて再び2位に終わった。草の根ブームに支えられるハッカビー氏、出遅れたジュリアーニ氏も加わって、混戦が続きそうだ。

 今回の予備選での投票者は過去最多になり、投票用紙が足りなくなったところもあった。アイオワ州でも党員集会で、受付の列が会場からはみ出した。

 雪の会場前で、ポスターを掲げる若者。凍りついた道を、車いすで投票にくるお年寄り。米国民の関心も、かつてなく盛り上がっている。

 指導者としての器を、冷静な論戦を通じて見定めてほしい。それが、民主主義のお手本として、米国が復活する最良の道だ。

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