食品の化学

1)糖類

化学U・高分子,糖のページ参照)

2)アミノ酸とタンパク質

(化学U・タンパク質のページ参照)

3)油脂

(化学T・有機化学・脂肪族酸素化合物・エステルのページ参照)

4)食品添加物

食品の発酵と腐敗

 カビや細菌などの微生物は、食品中の糖類・タンパク質・脂質などを、自らが持つ酵素により分解し、生活に必要なエネルギーを得ている。この分解によって、生成する物質が人間にとって有用なものの場合を発酵、有害なものの場合を腐敗という。

 

発酵食品

   主な発酵

発酵食品

微生物名

原料

生成物質

発酵名

アルコール類

酵母

穀物・果実中の糖類

エタノール

アルコール発酵

ヨーグルト

乳酸菌

牛乳中の乳糖

乳酸

乳酸発酵

食酢

酢酸菌

エタノール

酢酸

酢酸発酵


 この他、いくつかの微生物を組み合わせて作られる食品には、しょうゆ・みそ・日本酒などがある。

  例)しょうゆの製造  


食品の保存

食品の腐敗を防ぐためには微生物の繁殖を抑えればよい。

  ・水分の供給を妨げる保存法:

塩蔵(漬け物,塩漬けなど),糖蔵(羊かん,ジャムなど),乾燥(干物など)

・酵素反応や化学反応を抑制する保存方法:冷蔵、冷凍

  ・加熱殺菌し、その後、酸素の供給を絶つ保存方法:缶詰,レトルト食品

  ・有用微生物を利用して、原料を加工する方法:発酵食品

  ・食品添加物による保存方法

 

食品添加物

 表.主な食品添加物

食品添加物

主な品名

調味料

グルタミン酸ナトリウム,イノシン酸ナトリウムなど

酸味料

クエン酸,酒石酸,乳酸など

甘味料

ソルビット,アスパルテーム,キシリトール,ステビアなど

着香料

バニリン,メントール

保存料

ソルビン酸,安息香酸

酸化防止剤

アスコルビン酸(ビタミンC),トコフェロール(ビタミンE),カテキンなど

着色料

赤色3号(合成着色料),クロロフィル,β-カロテンカラメル色素など

増粘剤

ペクチン,セルロースなど

乳化剤

グリセリン脂肪酸エステルなど

発色剤

亜硝酸ナトリウム,硝酸カリウムなど





衣料の化学

1)繊維

化学U・合成高分子・合成繊維化学U・その他の天然高分子・天然繊維のページ参照)


2)染料と染色

染料

 色素には「染料」と「顔料」がある。「染料」は、粒子性を持たない物質で、化学変化により着色する。一方、「顔料」は粒子性の色素で、水や油に溶けず、分散させることによって染色する。


原料による分類

 表.染料の種類

染料名

分類

 

インジゴ

天然植物染料

タデ科植物のアイの葉から得られる

アリザリン

天然植物染料

アカネの根から得られる

カルタミン

天然植物染料

ベニバナの色素

コチニール

紅〜朱

天然動物染料

コチニール虫から得られるカルミン酸

古代紫

天然動物染料

貝類から得られる

アゾ染料

黄〜赤

合成染料

分子中にアゾ基-N=N-を持つ染料

 

染色法による分類

 直接染料 

水溶性で、繊維を直接染色する染料。綿などのセルロース分子の-OH基と水素結合することにより洗着する。色落ちしやすい。


 酸性染料・塩基性染料

  分子中に酸性基や塩基性基を持つ染料。絹や羊毛などのタンパク質中の塩基性基や酸性基とイオン結合することによって洗着する。鮮明な色彩を持つが、色あせしやすい。


 建染め染料

  分子内にカルボキシル基をもち、水に不溶であるが、アルカリ性還元液で処理して水溶性にして先着する。色調が美しく、色落ちしにくい。


 媒染染料

  繊維をあらかじめ金属塩溶液で処理し、繊維に金属イオンを吸着させる。このイオンに洗着させる染料。金属の錯塩を生成することによる。色落ちしにくい。

 分散染料

  水に不溶であるが、界面活性剤により水に微粒子状に分散させて洗着する。


表.各種の繊維に対する染料の染色性

繊維

直接

酸性

塩基性

建染め

媒洗

分散

綿

×

×

羊毛・絹

×

×

ナイロン

×

ポリエステル

×

×

×

×

アクリル繊維

×

×

×



3)洗剤

化学T・有機化学・脂肪族酸素化合物・セッケンのページ参照)




生命の化学

1)生命を構成する物質

生命体を構成する主要元素

表.人体を構成する元素

元素

質量%

構成する主な物質等

O

62.8

水,タンパク質,糖,脂質,核酸,その他多くの物質

C

19.4

タンパク質,糖,脂質,核酸,その他多くの物質

H

9.3

水,タンパク質,糖,脂質,核酸,その他多くの物質

N

5.1

タンパク質,核酸など

Ca

1.4

リン酸カルシウムなど

S

0.64

タンパク質など

P

0.63

タンパク質,脂質,核酸,ATPなど

Na

0.26

ナトリウムイオン

K

0.22

カリウムイオン

その他

0.25

Cl,Mg(クロロフィル),Fe(ヘモグロビン),I,F,Mn,Cu,



アミノ酸とタンパク質,糖類,核酸

 (化学U・高分子,糖, 化学U・アミノ酸とタンパク質,核酸のページ参照) 

 

油脂

(一部、化学T・有機化学・脂肪族酸素化合物・エステル・油脂のページ参照)

 油脂は高級脂肪酸のグリセリンエステルである。常温で固体のものを脂肪、液体のものを脂肪油といい、あわせて油脂という。体に蓄えられた油脂はエネルギー源になるほか、体の衝撃防止や保温の役を担っている。

 油脂のように、高級脂肪酸とのエステルよりなる生体成分を総称して脂質という。細胞膜の成分であるリン脂質は分子内にリン酸基をもつ脂質である。卵黄に多く含まれるレシチンはリン脂質の例である。



2)生命を維持する物質              

酵素

 (化学U・高分子,糖・糖の分解 , 化学U・アミノ酸とタンパク質・酵素のページ参照) 


ビタミンとホルモン

 ・ビタミン

生体内の代謝や生理現象を行う際に、補足的に働く物質の総称。補酵素やそれ自身生理作用を持つものもある。多くは人間の体内で合成できないものである。

          表.ビタミンの化学名

ビタミン名

化学名

ビタミンA

レチノール

ビタミンB

チアミン

ビタミンB

リボフラビン

ビタミンC

アスコルビン酸

ビタミンD

カルシフェロール

ビタミンE

トコフェロール


・ホルモン

  生体内で合成される物質で、細胞に働きかけてさまざまな生理作用を示す。血糖値を下げる作用があるインスリンなど、タンパク質でできているものや、男性ホルモン,女性ホルモンなど、タンパク質以外の物質からなるものもある。



代謝

生体内で行われる酵素を触媒とした物質の化学変化を代謝という。生物は代謝により生命活動に必要なエネルギーを得る。化学物質がもつ化学エネルギーは、その物質の化学構造を維持するためのエネルギーである。複雑な化学構造をもった物質ほど、高い化学エネルギーをもっている。生体内での化学変化(代謝)には化学エネルギーの出入りが起こり、このエネルギーの出入りをエネルギー代謝という。


簡単な物質 + エネルギー → 複雑な物質

簡単な物質(低エネルギー)が複雑な物質(高エネルギー)に変化するには足りない分のエネルギーが吸収される。


⇒ 細胞は簡単な物質(低エネルギー)を取り入れ、複雑な物質(高エネルギー)に変えて細胞内に貯えている。


 複雑な物質 → 簡単な物質 + エネルギー

複雑な物質(高エネルギー)が簡単な物質(低エネルギー)に変化すると、余ったエネルギーが放出される。


⇒ 細胞は貯えておいた複雑な物質(高エネルギー)を必要に応じ簡単な物質(低エネルギー)に変化させ、放出したエネルギーを利用して活動している。 



同化と異化

外界から取り入れた簡単な物質を、その生物に必要な複雑な物質に変える働きを同化という。これに対して体内の有機物(複雑な物質)を分解して簡単な物質に変えることを異化という。



ATP(アデノシン三リン酸)



生物は代謝によって出入りする化学エネルギーを直接利用することはできない。生じた化学エネルギーはATPという物質によって利用できるようになる。ATPはアデノシン三リン酸の略号で、アデノシンという物質にリン酸が3つ結合した化合物である。


このATPは分解するとADP(アデノシンニリン酸)とリン酸になる。このときエネルギー(約30kJ)が放出され、生物はこのとき放出されるエネルギーを利用している。リン酸が外れるとエネルギーが放出されるので、リン酸とリン酸の結合を高エネルギーリン酸結合という。逆に、ADPは種々のエネルギーを吸収してリン酸と結合し、ATPに戻る。


同化の例(植物の光合成)

 植物の光合成は、植物細胞の葉緑体で行われ、複数の反応課程が組み合わさっている。光エネルギーを吸収すると、二酸化炭素と水(簡単な物質)がから、最終的にグルコース,デンプン(複雑な物質)を合成し、体内に蓄える。

反応式:6CO2  +  12H2O  +  光エネルギー    C6H12O6  +  6O2  +  6H2O


異化の例(好気呼吸)

細胞内に貯えてあるグルコース(複雑な物質)を分解し、エネルギーを得る反応。このとき、酸素O2を使って、二酸化炭素CO2ができるので、好気呼吸という。

反応式: C6H12O6  +  6O2  +  6H2O    6CO2  +  12H2O  +  38ATP


好気呼吸は解糖系クエン酸回路電子伝達系という3つの過程に分かれている。


嫌気呼吸

 酸素を用いないで物質を分解し、エネルギーを得る反応で、主に微生物が行い、発酵や腐敗がある。グルコースが利用される発酵には、乳酸菌が行う乳酸発酵と酵母が行うアルコール発酵があり、それぞれ、乳酸とエタノールを生成する。腐敗は、発酵と同じ現象である。人間にとって有用な場合が発酵、有害な場合が腐敗である。




薬品の化学

1)医薬品

医療に用いられる化学物質を医薬品という。医薬品が人間など動物に対して与える作用を薬理作用という。医薬品の多くは、合成有機化合物・微生物が生産する物質・無機化合物である。また、動植物などの天然素材を、そのままか、乾燥させて用いるような医薬品を生薬という。

 表.これまでに学習した物質と薬理作用

薬理作用

物質

解熱鎮痛作用

アセトアニリド,アセチルサリチル酸

消炎鎮痛作用

サリチル酸メチル

制酸作用

炭酸水素ナトリウム,炭酸カルシウム,炭酸マグネシウム

麻酔作用

クロロホルム,エーテル,エチレン

殺菌消毒作用

塩素,過酸化水素,アンモニア,エタノール,フェノール,クレゾール

駆虫作用

ナフタレン,p-ジクロロベンゼン


サリチル酸系医薬

ヤナギの樹皮から得られたサリシンという物質には、解熱鎮痛作用がある。これと同じ作用を示すサリチル酸の化合物群のことをサリチル酸系医薬いう。サリチル酸そのものでは副作用が強いため、アセチル化したアセチルサリチル酸が解熱鎮痛・抗炎症剤として使われている。サリチル酸メチルは消炎外用薬として使われる。


アミド系医薬

 アニリンと無水酢酸から縮合すると、アミド結合を有するアセトアニリドC6H5-NHCO-CH3が得られる。アセトアニリドは解熱鎮痛剤に用いられたが、副作用が少ないフェナセチンC2H5-O-C6H4-NHCO-CH3に代わった。またスルファニルアミドH2N-C6H4-SO2NH2には抗菌作用があることから、色々なスルファニルアミドの誘導体(サルファ剤という)H2N-C6H4-SO2NH-RR=Hでスルファニルアミド)が開発された。サルファ剤は細菌性の病気の化学療法に用いられる。


抗生物質

 抗生物質は特定の微生物によって生産され、他の微生物の発育・代謝を阻害する物質である。ペニシリンは、青カビが生産する抗生物質で、細胞壁の合成を阻害する物質である。ブドウ球菌・連鎖状球菌・肺炎菌などの感染症に効き、細胞壁を持たないヒトには毒性が低い。ストレプトマイシンは、ペプチドの合成過程を阻害する抗生物質で、広い細菌に効果があり、最初の結核治療薬として開発された。細菌類は突然変異などによって、その抗生物質に耐性を持ってしまうことがある。このような耐性菌には新しい抗生物質の開発が必要となる。抗生物質はすぐに耐性菌が現れるという問題点がある。


薬理作用のしくみ

 医薬品は、人体組織や細菌の体内で、結合することによって薬理作用を示す。医薬品分子が結合する分子を受容体という。受容体は酵素や、その他のタンパク質であることが多い。医薬品分子と受容体は主にイオン結合,水素結合,分子間力によって結合する。従って、似た構造をもつ化学物質は同じような薬理作用を示す。


化学療法

 体内に侵入した病原菌には毒性を示し、人体には毒性を示さない性質を選択毒性という。この性質をもつ物質を用いて治療するという考えに基づいた治療法を化学療法という。抗ガン剤治療などは化学療法の例である。


副作用

 薬の過剰服用によって、中毒症などの副作用の症状が現れる。薬物の適正量を間違えると、死に至ることもある。適正量は年齢・性別の他、特異体質・アレルギーなどの体質によっても違ってくる。また、薬の併用によって副作用が現れることもある。



2)肥料

肥料

 植物の育成を促進し、生産量を高めるために用いられる化学物質が肥料である。肥料は生産手段・化学組成・作用・形状などの違いにより、さまざまな分類がある。生産手段による分類では天然肥料,化学肥料、化学組成による分類では有機質肥料,無機質肥料、作用による分類では直接肥料,間接肥料といった分類がなされている。


植物の必須元素

 植物の必須元素は16種類あり、植物体内に存在する割合では、C,O,H,N,K,Ca,Mg, P,S,Cl,Fe,Mn,Zn,B,Cu,Moの順になっている。Cl,Fe,Mn,Zn,B,Cu,Moは合計しても全体の0.05%未満で、これらの7種を微量元素という。必須元素のうち、土壌中から吸収されるものはN,P,Kで多くの土壌で不足しがちである。この3種は特に土壌に供給する必要があり、そのための肥料が窒素肥料(主成分:アンモニウム塩),リン酸肥料(主成分:リン酸塩),カリ肥料(主成分:カリウム塩)である。この3つを肥料の三要素という。


複合肥料

 三要素のうち、1成分しか含まないものを単肥、2成分以上含むものを複合肥料という。複合肥料のうち、2成分以上の肥料を機械的に混ぜたものを配合肥料、抽出などの化学的処理によって得たN,P,K2成分以上含ませたものを化成肥料という。


肥料と窒素の循環

 自然界における窒素は、形を変えながら自然界を循環している。これを窒素リサイクルという。



窒素固定

 空気中の約80%は窒素である。この窒素を還元してアンモニアを合成することを窒素固定という。アゾトバクター,クロストリジウム,根粒菌といった微生物、下等植物のラン藻類は大気中の窒素からアンモニウムイオンを合成することができる。これを生物的窒素固定という。また工業的窒素固定にはハーバー・ボッシュ法がある。


土壌中の肥料の変化

イネ科の植物などはアンモニウムイオンを直接に摂取できるが、多くの植物は硝酸イオンの形でしか吸収できない。窒素肥料のアンモニウムイオンは亜硝酸菌によって、亜硝酸イオンに、さらに硝酸菌によって硝酸イオンに変化し、これを植物が吸収する。このアンモニウムイオン→亜硝酸イオン→硝酸イオンの過程を消化という。根から吸収された硝酸イオンは、植物体内で再びアンモニウムイオンになる。アンモニウムイオンは、光合成によってできたデンプンなどの炭水化物が分解されてできる簡単な有機物と反応して、アミノ酸となり、これがタンパク質などの化合物に変わっていく。この過程を窒素同化という。


3)ファインケミカルス

 特定の有機物質のきわだった特徴を生かした製品はファインケミカルスとよばれる。医薬品をはじめ、香料・界面活性剤・接着剤・潤滑油・液晶・染料・色素・溶剤・可塑剤・安定剤などの応用製品がある。

 



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