脳炎や胎児の奇形、流産などを起こす寄生虫のトキソプラズマ原虫が、感染した細胞を破って別の細胞に寄生する際、みずから作った植物ホルモンを情報伝達に利用していることが分かった。植物ホルモンの働きを抑える除草剤で治療効果を示すデータも動物実験によって得られており、新たな治療薬開発につながることが期待される。10日付の英科学誌ネイチャーで、大阪大微生物病研究所の永宗喜三郎助教(寄生虫学)らが発表する。
トキソプラズマは長さ100分の1ミリ程度で細胞内に寄生。日本では約1割、世界では3分の1の人が感染しており、胎児に感染した場合、奇形や流産になることもある。また、エイズなどで免疫力が落ちると、脳炎などで死ぬこともある。
永宗助教によると、遺伝子解析の結果、進化の過程で、植物ホルモンを作る細菌を取り込んだとみられることが判明。感染細胞に植物ホルモンを作用させると、休眠状態のトキソプラズマが細胞を破って外に出た。植物ホルモンは、細胞内から外に出る際のサインになっているらしい。
実験で感染させたマウスは2週間で8割が死んだが、除草剤で植物ホルモンの阻害薬「フルリドン」を毎日注射すると、死ぬのは2割に減ったという。植物ホルモンのサインを阻害することで、トキソプラズマの活動を抑えたとみられる。フルリドンは動物には害がなく、治療薬への応用が期待される。【根本毅】
毎日新聞 2008年1月10日 7時40分