<空の中央で、雲は、突然ナイフで断ち切られたように、真っ直ぐに細長く割れ、そこから、目に染みる青い空が覗く>
県南に暮らしているとなかなかお目にかかれない。美作市在住の作家あさのあつこさんのベストセラー「バッテリー」?に登場する魅惑的な空は、美作の冬に、姿を現すという。
昨年十月からあさのさんを取材。七日から企画「ふるさとよ」(朝刊一面)に連載している。
旧美作町に生まれ育ち、三十代後半で作家デビュー。三人の子どもが独立した今、書くことに全力投球している。とにかくエネルギッシュな人だ。書くだけでなく、見る、聞く、話す、笑う、歩く、食べる…すべてにおいて好奇心があふれている。美作の自然や人から多くの刺激を受け、作品の中で生かされている。
一昨年から、映画「バッテリー」で沸いた美作市。今年も、テレビドラマのロケ、放映とバッテリーブームは続く。ただ、人口減少にあえぐ地域は、このブームを単なる経済効果として消費してしまうのか、地域再生への一歩にしていけるのか。地域の力が試される。
「いいところですよね。ここに来たら、『バッテリー』の冒頭、おろち峠のシーンを思い出します」。昨年十二月、第一回美作市文学祭に招かれた直木賞作家・森絵都さんは、美作市の印象をこう語った。
美作市という地域は「あさの文学」によって、新しい輝きを放ちつつある。「美作の山を見ているだけで幸せ」「この街に住みたい」と、熱く語るあさのファンも少なくないと聞く。地域振興のヒントがある。
(編集委員・清水玲子)