「ようやく実現したか」という感じだ。福田康夫首相(自民党総裁)と民主党の小沢一郎代表による初の党首討論が行われ、年金記録不備問題や新テロ対策特別措置法案をめぐって議論した。
当初は昨年十月三十一日に予定されていたが、党首会談や大連立構想騒動などで再三延期されていた。「ねじれ国会」の下で衆参両院の第一党党首同士が議論を通して日本をどうするかを国民の前に示す意義は大きい。白熱の討論が期待された。
だが、迫力と新味を欠いたといわざるを得ない。時間の大半を割いたのが年金記録不備問題だ。小沢氏は年金記録の全員への通知の遅さを取り上げ、「首相の権限を発揮して短期間で行うべきだ」などと指摘した。これに対し、福田首相は「政府も民間も総動員態勢で作業している」「早い解決が信頼回復につながるとの考えは同じ」と取り組みへの理解を求めた。
インド洋での海上自衛隊による給油活動を再開するための対テロ新法案について、小沢氏は「事実上の軍隊を海外へ派遣するにはきちんとしたルールに基づくべきだ。政府の状況判断だけで行えば国の方向を誤る」とし、自衛隊海外派遣の原則と憲法の関係をただした。首相は「洋上の給油活動は武力行使に当たらない国際平和活動と考えている」「新法は憲法九条に抵触しない」とするとともに、参院での対テロ新法案の採決を促した。
党首討論はやっと実現したが、物足りなさが残った。確かに年金は国民の関心が高い問題だが、取りざたされる衆院解散・総選挙をにらんだ両党首の国民生活重視のアピールだけが目立った。問題解決への掘り下げた対策にはほど遠い。対テロ新法案にしても、付け足しとの感じは否めない。
何よりも疑問なのは、なぜ肝心な問題を議題にしなかったかである。党首討論を先送りまでして行った党首会談という密室的な場で持ち上がった大連立構想である。世間を驚かせ混乱を招いた。その後、小沢氏は大連立構想について「そのことは考えに入れず、総選挙でがんばる」とし、福田政権への対決姿勢を強めているものの、国民への説明を果たしたとはいえない。
「ねじれ国会」の停滞は国民生活に大きく影響する。どう現状を打破するか腹を割った議論を展開すべきだった。その際に欠かせないのが、大連立構想に対する両党首の考えと経緯である。国民が知りたい謎の部分をなぜ封印したのか。あらためて党首討論という場でオープンにすることが重要だ。
福岡市で飲酒運転の車に追突され幼いきょうだい三人の乗った車が海に落ち死亡した事故で、福岡地裁は、運転していた元福岡市職員に懲役七年六月の判決を言い渡した。
求刑は、危険運転致死傷罪と道交法違反(ひき逃げ)の併合罪で最高刑となる懲役二十五年だったのに対し判決は軽い。地裁が危険運転致死傷罪の成立を認めず、事故は脇見による前方不注視が原因として業務上過失致死傷罪と道交法違反での最高刑を適用したからだ。
判決では、危険運転致死傷罪を適用するには「現実に道路や交通の状況などに応じた運転操作が困難な心身の状態」が必要とした。
争点となった酔いの程度について、被告が蛇行や居眠り運転せず、湾曲した道路を進み、飲酒検知で酒気帯びとなったことなどを挙げ、「高度な酩酊(めいてい)状態ではなかった」と結論づけた。危険な運転を厳格に解釈したといえよう。
しかし自宅や飲食店二軒でビールや焼酎をしたたかに飲んで、あえてハンドルを握り時速八十―百キロで走行したうえでの事故である。市民感情としては釈然としない。まして愛児を奪われた両親には納得できないものがあろう。
判決は危険運転罪の適用の難しさを浮き彫りにした。これまでの飲酒事故でも遺族が適用を求めたものの捜査段階で見送られたり、起訴に持ち込んで一審と控訴審で結論が分かれたケースもあった。判断の基準が揺れては司法への信頼はおぼつかない。
今回の事故は飲酒運転追放へ世論を高めるきっかけとなった。法改正で厳罰化が進むなど、世間の目は厳しくなっている。これ以上飲酒運転を許さないためにも一層の取り組みが求められる。
(2008年1月10日掲載)