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『新説 教育社会学』を読んで

直井一博2008/01/09

NANANA
編著者:加野芳正・藤村正司・浦田広朗
出版社:玉川大学出版部
定価:2400円+税
 「あたりまえ」ということばには不思議な力がある。たとえば「そんなことはあたりまえです」という言い方自体が特定の状況を思い浮かべさせたり、あるいは、それ以上問うことをさせない、そして、従うことを強要するような脅迫めいた力がある。本書は、社会に埋め込まれた学校教育の「あたりまえ」さを、問い方と共に考えるテキストである。

 教師が一人と、児童(生徒・学生)の集団が共に学び、生活する空間としての教室。このようなおなじみで「あたりまえ」の光景も、実は歴史のある時点からこういう空間として創られ現在に至ったものである。教育を受ける過程で私たちはこうした近代(化)の装置に馴らされ、あるいは適合を求められてきた。

 社会問題化したいじめや暴力の問題、教室の外にも連なる男女の区分の問題、あるいは校則をめぐる管理の問題など、教室の「社会性」は、多くの「あたりまえ」から成り立っている。より手前にある問題として、学ぶ人としての児童(生徒・学生)と、教師という立場のそれぞれに暗黙に期待される役割、言動の許容範囲やそれを越えた場合の「逸脱」。学校生活に慣れるということは、これらの問題を抱える、近代の教育制度という装置に身体や思考を馴らしていくプロセスに他ならない。

 読者は本書によって、私たちが馴らされてきた学校を含む教育制度の成り立ちや機能維持、すなわち再生産のしくみに関する覆いを取り払う体験を、一時的にせよ味わうことができる。主要読者である大学生、特に教職に就こうと考えている読者は、本書が垣間見せてくれる社会の中の学校、教育という制度の成り立ちの社会性を(再)発見してから選択しても遅くはない。教職は、「憧れているから、好きだから」という気持ちだけで続けていくことは難しい。本書は、社会学の視点から教育という営みの確認、再発見を経て、教育実践に従事する選択をする際の重要な資料となろう。


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