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山本(青木)智子(やまもと ともこ)
Yamamoto Attorneys
NSW大学法学部・教養学部卒。International Lawyers Co-operativesのメンバーであるYamamoto Attorneysの代表として各種法務を遂行している
確かに現行の家族法では離婚申請を行う上で12カ月間の別居は条件の1つとされています。これは「婚姻関係が破綻し修復不可能な状態」(“irretrievable
breakdown of marriage”)であることを当事者が証明するための唯一の規定要件です。
両当事者が同じ家に住みながらも互いの当事者から完全に独立した生活を営んでおり、双方ともに「家庭内別居」をしていると認識している状態は別居としてみなされますが、別居は基本的に、継続的(※断続的なものが認められる場合もある)、かつ真正なものである必要があります。
例えば、いずれかの当事者による単独離婚申請で、申告されている別居期間に偽りがあると他方当事者から申し出があったり、また、別居の事実に対する当事者間の認識にずれがあると考えられたりする場合、その離婚申請は却下の対象となり得ます。
質問者の場合、夫はあくまでも1カ月間の「旅行」として妻が子どもを連れて日本に行くことに承諾したまでであり、「別居」のために妻が家を出ることに承諾したわけではありません。この状態のままで12カ月間妻が日本にいたとしても、上述の通り「別居の事実に対する当事者間の認識にずれがある」ことになり、後の離婚申請に際して必要な条件を満たすことにはなりません。
さらに、子どもを国外に連れ出すことは子どもの親に会う権利を剥奪する行為としてみなされるため、約束の1カ月を過ぎても子どもをオーストラリアに連れて帰らない場合には、夫が子どもを強制的にオーストラリアに連れ戻すための手続きを行うことがあり得ます。
ただし、現実的な観点から、日本はハーグ国際協定の加盟国でないため、子どもの奪還を実際に日本で執行することは非常に困難です。また、こうした手続きにかかる法務費用は決して少なくありません。したがって実際に夫がいきなりそうした強硬手段を講じるか否かについてはコメントの余地がありません。
しかしながら、もし今回約束の期間内に子どもをオーストラリアに連れ帰らなかった場合、そうした事実は将来におけるparenting orders(居住や面会など、子どもの養育に関する裁判所の命令)などの家庭裁判所での手続きにおいて、質問者は非常に不利な立場に立たされることになるでしょう。また、次に子どもを国外に連れ出すことが非常に困難になることも考えられます。
以上をご質問に対するひとまずの回答としますが、離婚に際しては子どもの養育、財産分与、そして養育費の問題などが関与してくるのは必至です。加えて日本人同士の結婚でない場合には、国外に子どもを連れ出すことに関する問題がどうしても起こりがちです。日本における家族法関連分野における我々の認識とずれがある場合もありますので、当地の家族法の認識を高める意味で専門家の説明を求めることを強くお勧めします。
なお、本記事は法律情報の提供を目的として作成されており、法律アドバイスとして利用されるためのものではありません。