昨年のベストセラー文芸部門1位(トーハン調べ)の「恋空」をはじめ、出版を手掛けたケータイ小説は23作。女子中高生の人気を背景に発行総数は645万部に上る。「『Deep Love』の02年刊行時は、携帯電話で小説を読み書きするなんて一般化しないと思っていた」と笑う。
「Deep Love」は性描写の多さで複数の出版社が二の足を踏んだ。だが著者に寄せられた「読んで援助交際をやめた」というメールに心を揺さぶられ、社長を説き伏せた。05年の「天使がくれたもの」は読者が「本にして」と涙ながらに電話してきたのがきっかけ。「ここまで人の心を動かすなら」と出版を決断。先駆けと言われる2作が生まれた。
バブル絶頂期の89年、住宅販売に携わろうと不動産会社に就職。配属先が傘下のスターツ出版だった。元々文学と無縁ではない。大学は国文学専攻。卒論を書いた坂口安吾の命日の集いには今も顔を出す。
ケータイ小説には、「文章表現が稚拙」との批判もある。「素直につづられた恋人や友人への思いが、他者との接点を不器用に求める今の若者の共感を呼んでいる。表現や構成の妙を堪能するだけが文学の楽しみではない。心を動かし、生き方を考えさせる小説を送り出したい」。初心に揺らぎはない。【田村佳子】
【略歴】松島滋(まつしま・しげる)さん 千葉県出身。東洋大卒。販売部で「ケータイ小説」本を手掛け05年から書籍編集部プロデューサー。42歳。
毎日新聞 2008年1月9日 0時02分