「グッドマンの法則」についての警告

「グッドマンの法則」には著作権者がいることをお忘れなく

先日、たまたま接遇関係の本を読んでいたら「グッドマンの法則によれば」という記述を見つけました。ところがその表現が私の紹介したものと違うので、ほかにも「グッドマンの法則」って言うのがあるのかと思って、著者に「グッドマンの法則とはどういう法則ですか」とおたずねしたら、YAHOOに「グッドマンの法則」というキーワードをいれるといろいろ説明がでていますというメールをいただきました。検索してみるとなんと56件の項目が出てきたのにはびっくりしました。

もしあなたがJohn Goodmanに「 Goodmans rules」について知りたいとメールを出したとします。おそらく彼の答えは「それについては全く知らない」という答えが返ってくるでしょう。「グッドマンの法則」はグッドマン自身は全く知りません。それは私が作り命名したものですから。グッドマンの理論、彼自身は Goodmans theoriesといっていますが〜それを3つに分けて「第一の法則」から「第3の法則」に整理して、定義付けをしたのは私ですから、これを勝手に使うのは明らかに著作権違反の行為になります。

かつて私のところに「グッドマンの法則」の英語の原文が欲しいという問い合わせがありました。英語の原文はないのです。私が作ったものですから。原文は日本語です。

私がグッドマンの理論、つまり彼が1975年から79年、さらに84年に行ったUS Office of Consumer Affairs(合衆国消費者問題局)から依託された“Consumer Complaint Handling in America”という調査の結果から発見した理論、これを知って私が我が国に紹介したのは1980年。グッドマン夫妻を日本に呼んで消費者関連専門家会議の大阪の会合で講演をして貰ったのがACAP創立の翌年、1981年でした。その後、日本経済新聞社で出していた「消費と流通」という季刊誌で初めてグッドマンの理論を紹介したのでした。取り上げてくれた日経の斉藤保民さん。その後一連のCSシリーズを手がけ、いうならばこの分野で私を世に出してくれた恩人ですが、さる3月、57歳で亡くなりました。ご冥福を祈ります。

それを「グッドマンの法則」という形でまとめて発表したのが、昭和61年(1986)に出した「体系:消費者対応企業戦略」の中です。同書の第2章「消費者対応の基本理念」「第2節 企業に利益をもたらす消費者問題 」つまり、37ページから41ページにわたって説明していますがこれが図書という形での初出です。(この本は絶版になっていましたがオンデマンド出版の形式で入手可能になりました。私のホームページから購入できます。)

「グッドマンの法則」が一般的になったのは1992年に日本経済新聞社から出版した「イラスト版顧客満足ってなあに? 〜CS推進室勤務を命ず」で紹介したからです。この本は10年以上経った今日でもまだ増刷が続いています。10万部以上でています。

その91ページには「不満を持った顧客のうち苦情を申し立てその解決に満足した顧客の当該商品の再購入決定率は、不満を持ちながら苦情を申し立てない顧客のそれに比較してきわめて高い」これは私が「グッドマンの第一の法則」と名付けた法則です。と書いてあります。

第2の法則については同書の101ページに:

苦情処理に不満を抱いた顧客の非好意的な口コミの影響は満足した顧客の好意的な口コミの影響に比較して2倍も強く販売の足を引っ張る 

第3の法則については同じく102ページで触れています。ここでは以下の定義は省かれていて説明だけされています。

企業の行う消費者教育によって、その企業に対する消費者の信頼度が高まり、好意的な口コミの波及効果が期待されるばかりか、商品購入意図が高まり、かつ市場拡大に貢献する。

また拙著「顧客満足を超えるマーケティング」(日本経済新聞社、1994)の136ページから145ページにかけて「90年代のマーケティング理論の基礎としてのグッドマン理論」という項目があります。そこではかなり詳しくグッドマン理論の成り立ちを説明しています。その中でそれぞれの定義にはっきり(c)Tomoyasu Satow 1986と著作権のあることを明示してあります。

従って、「グッドマンの法則」としてこれらの定義を使うのであれば当然著作者の許諾が必要なことは言うまでもありません。

YAHOOの検索で出てきたすべての項目をチェックしたわけではありませんが、たとえばニットーリサーチという調査会社のホームページを見ますとでは顧客満足調査のアプローチにこの私の定義をそっくりそのまま使って(グッドマンの法則)とだけ記載している例がありました。また経営品質協議会関連の箴言集というサイトではこの3つの定義を載せて(グッドマン)とだけ書いてありました。

最近では「グッドマンの法則」がひとり歩きをし始め苦情処理に満足した顧客をグッドマンが言っていない「使徒」という表現を使った例もあります。これは明らかにハーバードビジネススクールのサッサーが使っている表現「使徒」「テロリスト」と混同されているのではないかと思えるのです。

グッドマンの理論の紹介者として彼の考えが広く我が国で受け入れられる〜といっても彼が言い出してからまもなく4半世紀になりますが〜ことは大変喜ばしいことですが、いつの間にか間違って伝えられることになっては困るのであえてここに問題を提起した次第です。もうこれだけ広がって公知の言葉になっています。私としては出典を明示されればお使いになることに異議を唱えるものではありません。もちろん良識のある方ならば事前に許諾の連絡をなさるであろうとは思います。これだけ勝手に使われている現実を知ったので、事実関係だけははっきりさせておく必要があると思ってホームページに掲載しました。