顧客満足――評価を数字で

 

白鴎大学の「白鴎論集」Vol.14,No.2の『実践段階に入った顧客ロイヤルティ・マネジメント』の資料(イングラム・マイクロのCSI&CVAマニュアル)をアップロードしようとしましたが出来ませんでした。「白鴎論集」をご覧下さい。白鴎大学0285−22−1111 

 

顧客満足の評価を数字で把握する

 

 顧客満足経営が過去十数年、わが国で定着しなかった理由の一つに販売と違って顧客サービスの分野は実際の数字でそのプロセスや成果を評価することができないと信じ込んできたことです。サービスの場合、商品と違って成果に対する評価だけでなく、それに加えて成果を手にするプロセスの評価が求められます。

 リンダ・ラッシュが『エクセレント・サービス(拙訳:日本能率協会)』で説いているように、会社の重役会の話題は数字だらけです。

数字で説明しなければどんな素晴らしい成果を顧客満足であげても説得力がありません。企業ではPDCA(計画・実施・検証・評価)が行われなければ意味がないのです。

 果たして顧客サービスの分野で評価を行うことは不可能でしょうか。たしかにわが国で顧客満足に関心を持っている企業では従業員の業績評価に顧客からのお褒めのコトバや、仲間・同僚・上司の推薦という形で顧客が満足した場合の評価をしているところが増えてきたことは事実です。しかしこれでは客観性に欠けますし、評価の質のばらつきを避けることは出来ません。

 数字での顧客サービスのクオリティ評価は顧客ロイヤルティ経営を定着させるために、顧客サービスの貢献度を明らかにし、公正な従業員の業務査定を行う意味できわめて重要です。

ただ言えることは、顧客サービスの数量的把握は売り上げや利益を計算する作業にくらべて、複雑で、また汎用性のあるものではありません。単に会計ソフトをパソコンにインストールしてデータをインプットすれば結果が出てくるものではありません。

 それぞれの企業で自分の会社の業種・業態にあったプログラムをつくる必要があります。やがてそれを専門にするコンサルタントや調査会社がプログラムを作る業務が企業として成立できるでしょう。もし、それを手がけるならば、その考え方とアウトラインを提供した私に最低、連絡するくらいの礼を尽くして頂きたいと思います。というのはかつて『顧客満足ってなあに?』でCS推進のやり方を紹介しましたら、なにのご相談もなしに「本に書かれた通りの段取りを進めてうまく行かなかった。どうしてくれる」と苦情をいってきた企業があります。

 

顧客満足度調査の欠陥と問題点

 すでに多くの会社、たとえば一九九一年と一九九八年の二回、マルコム・ボルドリッジ国家品質賞を受賞したソレクトン社ではすでに九〇年代に入る前から、コンピューター周辺機器の大手ディーラー、イングラム・マイクロ社などは実際の業務の中にそれを取り入れて成果をあげています。

このやり方はこれまで一般に行われてきた顧客満足度調査とは根本的に違います。

 わが国でも顧客満足度調査がかなり一般的になってきました。なにしろNHKのドラマでも「顧客満足度調査」というせりふが飛び出すのをみて苦笑したのが、今年の正月五日の晩でした。

 消費者対応論ゼミの調査によると回答社五八社のうち、定期的に顧客満足度調査をやっている企業は六二・一パーセント、過去にやった企業は一九・〇パーセント、不定期にやっている企業は三社、その他一社、やっていない企業が六社、無記入二社でした。

 ところで、顧客満足度調査というと、その殆どが満足したか、不満だったかを五段階のスケールでとるやり方です。よく見る例はホテルや旅館に泊まった時のアンケートです。

 私はこの種のきわめて当てにならないデータを集めてそれで会社の経営を左右する判断材料にするやり方に批判を持っています。

 まず第一点は、満足か、不満かというのは回答者の主観による判断です。同じ人でも空腹な時と満腹な時、生理的条件や精神的に高揚しているときと落ち込んでいる時ではマークをつける個所が変わってきます。時間がない時には駅蕎麦でも満足しますが、時間がある時は駅そばでは不満足です。恋人と楽しい一時を過ごした時のホテルの満足度は高く、別れ話のホテルの満足度は低くなります。

 第二点はこれらの設問が調査を行う企業の視点で設計され、顧客の視点を取り込んでいないのが問題です。企業が考えた顧客の関心と、顧客自身の関心が往々にして全くかみ合わないのです。

 そこで顧客満足度調査により客観性をたかめる調査の設計が必要になってくるのです。

 

顧客満足度調査の基本的考え方

 顧客満足度調査の基本は顧客が満足した度合いを顧客の視点で調査することです。顧客の求めているものが何かを知らないで、企業の視点で聞いても意味ありません。顧客が求めているものにいかに企業が応えているか。それを顧客の目で評価していくかという事です。換言すれば企業の思い、努力が顧客にどのように受け止められ、受け入れられているかを知り、確かめるために行うのです。

 サム研究所の箕輪睦夫氏が開発した顧客満足度調査はきわめて実践的です。彼は私が主宰するCV(顧客評価)マーケティング・ネットワークの中心人物で、幅広いコンサルティング活動を展開している若手の経営コンサルタントです。彼が手がけた三井観光開発の鹿島槍スキー場で行った調査は「組織内活動連動型顧客満足度調査」と呼ばれて各方面から注目を集めています。調査の結果がすぐ経営の改善に直結しているのが特徴です。この調査の考え方と方法はこれからの消費者満足度調査のポイントを示しています。

1.  従業員の思いや努力が顧客に通じているかを判断する。


 

 

 ただ単にお客の印象を聞くだけでは調査の意味がありません。質問項目は従業員の思いや努力がお客に通じているかどうかを、従業員自身が納得し判断できるものでなくてはなりません。

2.  お客の反応の良し悪しを数値化できる明確な形でとる。


 

 

一つひとつの設問に「二者択一方式」の回答欄を設けることによって、お客の明確な反応を得ることができます。この方式では「はい」を一点、「いいえ」を〇点にすることが出来ますから調査結果を数値化できます。前後の調査と比較することが可能になります。

3.  お客の満足度に深く関わる要因を把握する。

質問項目および回答欄に大項目と小項目を設け、大項目では「大変満足・満足・どちらともいえない・不満・大変不満」といった総合満足度をとり、小項目では二者択一方式の回答を受けるようにするとどの小項目が総合的な顧客満足度に影響を与えているか、全く影響を与えていないかがわかります。さらに,設問には、「再来訪」「友人への推奨」の二点が不可欠です。

この調査の特徴は「お客がどう感じたか」を聞いていることです。普通の調査では「大浴場は清潔でしたか」と聞きます。この設問は「大浴場は清潔感のある施設と感じられましたか」とお客の感じ方を聞いています。清潔か否かは別にお客に聞かなくてもわかります。問題はお客がどう感じたかにあるのです。

 

顧客ロイヤルティ調査の考え方と手順

 私が「顧客ロイヤルティ調査」と名付けた調査は、二つの調査の汲み合わせから成り立っています。すなわち顧客満足指標(CSI)と顧客評価分析(CVA)の二つです。まず、あなたの企業に対して顧客が求めているものが何であるか。求めている価値、期待はなにかを出来るだけ詳しく調べる必要があります。

 顧客が無形の商品であるサービスを評価するにあたっていくつかの基準に従って行います。注意しなければいけないのは、サービスの評価は商品と違ってその「成果」だけでなく、「成果」を手にする過程(プロセス)に対しても同時に評価が行われるということです。ます、サービスの顧客の評価基準の「RATERの基準」(信頼性、 安心感、具象性、共感性、迅速性)を尺度にしてサービスの構成の七つの要因(環境要因、感覚的要因、人間関係要因、手続き要因、情報要因、提供物要因、金銭的要因)を分析する作業から始めます。

 注意すべきは業種・業態、さらに業界でのポジションニングによって顧客のこの五つの評価基準に対するウエイトが違うことです。同じホテル業界でも、都市型ホテル、ビジネス・ホテル、リゾート・ホテルでは顧客の評価基準のウエイトが大きく変わってきます。ですからあなたの会社にあなたの顧客が求めている価値、期待はなにかは独自に調査するする必要があるのです。リッツ・カールトンに対する評価基準とワシントン・ホテルに対するそれは違うのです。

 マーケットにおけるポジション、つまりリーダーなのかフォロワーなのかニッチャーなのかによっても違ってきます。

 

顧客満足指標(CSI)

 

 したがって顧客満足指標(CSI)の基礎はまずこのデータを顧客から集めることです。そしてあなたの企業の利益にもっとも貢献しているロイヤル・カスタマーのカテゴリィに属する顧客がどの要因のどの基準を最も重視しているかを抽出するのです。これらの顧客を対象にしてフォーカス・グループ・インタビューなどの手法を用いて社内測定基準(メトリックス)を明確化するのです。

ここでCSI(顧客満足指標)というコトバを使いましたが、これはこれまで調査会社のJ.D.パワー社などが言っている内容と違います。「顧客にとっての最重要事項について企業の業務のあり方(パーフォーマンス)を社内で評価する方法」のことなのです。

従来の考え方は顧客を対象に調査をしてその結果を評価する、つまり単純な顧客満足度調査の結果を指数化したものです。しかし、ここで言っているCSIは違います。あなたの会社のデータベースにはすでにどの顧客があなたのロイヤルカスタマーであるか、購買履歴、購買頻度、購買鮮度が入力されている筈です。その顧客を対象にまずフォーカス・グループ・インタービューなどの方式で、プリテストを行って、本調査で聞くべき調査項目の設問の設定を顧客の視点で選び出すのす。

 つぎに内部の業務の洗い出しをします。業務のプロセス分析です。

これにはMOTサイクル(サービス・サイクル)を使います。つまり「決定的瞬間」影響評価(MOT影響評価)をするのです。まずそれぞれの顧客接点を実際に現場で顧客と日常接しているサービス提供者の協力を得て、出来るだけ詳しく顧客との接触が始まってから接触が終わるまでのプロセスを細かく分析します。

 三井観光開発の調査では、従業員を集めて小集団方式でプロセスの洗い出しをしました。MOTサイクルには実に多くの接点が挙げられるでしょう。これらの接点(「決定的瞬間」の発生する接点)の中には顧客の購買行動に大きなインパクトを持つメジャーな「決定的瞬間」ものとそれほどの影響がないと考えられるマイナーな「決定的瞬間」が存在します。注意すべき点は企業側ではマイナーな「決定的瞬間」と考えていた接点が、顧客にとってはきわめて重要なメジャーな「決定的瞬間」として考えられている、その逆に企業がメジャーなものと理解しているものが顧客は大して問題にしていないマイナーな「決定的瞬間」だったということがあるのです。したがって分析結果がでたら再びフォーカス・グループ調査をかけて顧客の視点でチェックする必要があります。

 そこで選び出されたメジャーな「決定的瞬間」の一つ一つに関連する業務をさきの顧客の期待基準の項目に照らし合わせて分析を行います。

 顧客満足指標(CSI)モデル開発の目的は顧客の期待を上回る努力を日々行うことによって顧客との信頼関係を築き上げ、それによって会社の利益を最大限にし、それを継続することにあるのです。

 顧客満足指標は顧客が関心を持っていること、ニーズや要求を含めて業務の改善に役立つ情報を集める方法を提供してくれます。その実施によって顧客が不満足に感じている分野を把握することができ、経営者がすぐそれに対応して経営資源をそこに注いで改善することを可能にします。しかもそれが数字で把握できるのです。

顧客満足指標を取る目的は:

1.  顧客の期待と要求を理解する。

2.  これらの期待と要求に対してあなたの会社とあなたの競合会社がどのように応えているかを把握する。

3.  あなたの会社の目標にどれだけ到達できたかを判断するための優先順位、目標、基準を設定する。

4.  調査結果に基づいた商品やサービスの基準を開発する。

5.  傾向を把握してタイムリィなアクションを取ることが出来る。

 顧客を対象にした顧客満足度調査は消費者対応論ゼミの調査でも明らかなように、例外を除いて、やっても年何回の頻度です。費用の面、手間の面、さらに時間的なズレなどがあって、日々動いている業務の遂行に効果的な情報をタイミングよく提供してくれません。一方、顧客満足指標(CSI)を求めることは企業内の日常業務の中で顧客の満足を推測できるのです。企業全体としては月に一回の集計になるかもしれませんが、それぞれの担当セクションでは毎日、あるいは週単位で数字を出すことが可能です。

 

顧客満足指標(CSI)の調査システム

 顧客満足指標の調査システムは顧客の評価基準によって求めれている属性、たとえば「正確性」という切り口で、企業の提供する業務(パーフォーマンス)、たとえば「請求書の送付」といった場面でどうであったかをチェックするのです。たとえば、お客が買った商品の請求書が送られてきました。その内容が違っていた。消費税込みの金額の筈が消費税を別に請求された。そこでこれは話しが違うと会社に電話をした。これは「請求書間違い」という業務評価項目に一件として上げられます。このようにこの社内測定基準(メトリックス)を用いれば、その結果を業務プロセスの管理や、また担当者の業務評価や査定に用いることが出来ます。

 この業務評価項目はそれぞれの業務に応じて変わってきます。「正確性」という切り口でも「受注部門」「発送部門」では違ってきますし、その評価のウエイトも異なります。「発送部門」では「商品違い」「商品紛失」「数量不足」などが対象になります。そしてそれぞれの項目に目標値(許容値)があたえられています。例えば「商品違い」では許容値一・五%、つまり、一〇〇〇件の発送について一五件が許容値です。これを毎月集計して前年同月と比較してグラフにして社内に掲示します。そして、毎月、「顧客満足指標の今月の概要」がこの業務の担当マネージャーから社内文書で関係部門に送られるのです。

 消費者対応論ゼミの調査では顧客満足度調査の結果を従業員にフィードバックしている企業はわずか四社しかありませんでした。

 この目標値(許容値)は項目によって違います。「商品紛失」は一万件に三個、〇・三%、「数量不足」は一万件について七個、〇・七%戸という風に決められています。

 このデータを基礎に後で述べるCVA(顧客評価分析)の結果を組みあわせることによって総合的な評価が出来るのです。

 顧客からのフィードバックを組織的に取ることは頻繁には出来ません。時間的、経済的な制約もあります。そこで顧客にとって重要な分野でのデータをとるためにCSIによる測定が必要なのです。

 顧客ロイヤルティ経営を行う上で鍵となる「業務評価」の問題についてはどこの企業もその方法を模索しています。事実、先日、ある顧客満足経営のセミナーでも質問が出ました。ましてやその「評価」を数値で出す方法はわが国ではヤマト運輸などが部分的には行っていますが、トータルな経営指標として採用されているいる企業は筆者は寡聞にして知りません。(ありましたらぜひ教えて下さい)

 アメリカではすでに九〇年代のはじめに、このCSI/CVAの手法が開発され、ソレクトン社のような先進的企業で実際に使われ、そのような企業のマルコム・ボルドリッジ賞の受賞によって、そのノウハウが一般に公開されるにつれて広く浸透し始めているのです。

 

顧客評価分析(CVA)

 顧客評価分析(CVA)というコトバは、戦略計画研究所のブラッドリィ・ゲールが提唱しているコンセプトです。ゲールは一九八七年、マルコム・ボールドリッジ国家品質賞の立ち上げに加わっています。彼はその時点で「クオリティは顧客が決めるのだ」という主張を強く主張して孤立しました。「顧客が認識したクオリティ(Market−Perceived Quality)」と「顧客評価(Customer Value)」の二つのコトバがキィワードだと言います。「顧客が認識したクオリティ」(「市場知覚品質」と訳されたら何のことか判りません)とは、「競合社の提供する商品・サービスと比較したあなたの会社の商品・サービスについての顧客の意見」です。

また「顧客評価」とは「あなたの商品・サービスに対応する価格と顧客が認識したクオリティとのバランスによって生まれるもの」なのです。言い方を変えると、「顧客評価」とは「商品やサービスの価格に比例して顧客が感知しているクオリティ」と定義付けられます。「価値」とは「適切な価格で提示された商品・サービスのクオリティ(満足感)」ともいえましょう。あなたが手にした商品やサービスが支払いをするに値する、値ごろ感を抱いた時、市場に価値を生み出したことになるのです。

 顧客評価に焦点を当てた顧客調査はビジネスのプロセスと財務成績を関連させるように顧客の体験を織り込んで設計されています。

 これまでの顧客満足度調査は顧客のニーズと期待を企業が理解するのには役に立ちましたし、顧客を継続的に幸せにすることを目的としてきました。一方、顧客評価を中心においた顧客ロイヤルティ調査は市場において顧客の選択を促す要因はなにか、その主要な因子に焦点を当てています。したがって企業は顧客の総合的な評価を明確に認識し、理解することが出来るのです。

 

「クオリティ・プロフィール」

 顧客ロイヤルティ調査を実施するに当たって、顧客評価の基本概念である「クオリティ・プロフィール」を構築しなければなりません。キィ・コンセプトは「総合的な価値(支払いに値する価値)」は「商品とサービスのクオリティ」と「価格についての満足」から構成されているのです。これはどの業種・企業でも同じことです。

内容を説明する紙幅がありませんので表を見てください。
 

クオリティ・プロフィール   I社 (USA)

 

 

 

 

 

      属    性

 影  響

自   社

競合社平均

比較比率

 

 

成果スコア

 

 

製品・サービスのクオリティ

43%

8.25

7.55

1.09

価格の満足度

57%

7.98

7.57

1.05

全体価値

100%

8.06

7.55

1.07

 

 

 

 

 

製品・サービスのクオリティ

 

 

 

 

インサイド・セールス

32%

8.09

7.42

1.09

テクニカル・サポート

6%

7.72

7.14

1.08

出荷・配送

12%

8.52

8.22

1.04

製品

26%

8.46

7.75

1.09

顧客サービス

16%

8.16

7.66

1.07

クレジット

8%

7.86

7.63

1.03

製品・サービスのクオリティ

100%

8.25

7.55

1.09

 

 

 

 

 

価格の満足度

 

 

 

 

運送保険の合理性

23%

8.09

7.83

1.03

製品価格

38%

7.66

7.49

1.02

返品政策

24%

8.17

7.83

1.04

金融オプションの融通性

16%

7.84

7.38

1.06

価格の満足度

100%

7.98

7.57

1.05

 

競合社との比較で評価する

 

 この調査でもう一つ重要なことは自社に対する顧客の評価を調べるだけでなく競合社(すくなくとも三社)に対して、顧客がこれらの項目をどのように評価しているか指数で比較することです。

 私の個人会社「コミュニケーションワールド」では現在「顧客ロイヤルティ調査」をわが国の実情にあった形で行うべくすでにある大手調査機関と研究を始めています。その成果がおそらくわが国の顧客満足経営を単なるスローガンから事実に基づいた経営へと変貌させることでしょうし、いまこれをやらなければ国際競争がますます激しくなる市場で生き延びられなくなることは目に見えています。(白鴎大学経営学部「白鴎論集」第14巻第2号、2000年3月、「実践段階に入った顧客ロイヤルティ・マネジメント」参照)

 

 この基準づくりはあくまで顧客の視点で考えることです。例えば「二十四時間以内に配送」という基準を設けたとします。大抵この場合企業が出荷した時間が二十四時間以内と考えます。しかし、顧客の立場からは二十四時間以内に自分の手元に商品がつくことが「二十四時間以内の配送」に意味なのです。基準に休止時間、注文待ち時間、組立て時間、受注残量、配達時間、時間当たりの受注受付件数、通話当たりの時間は企業の視点の基準です。

一方、顧客視点の基準は「電話のかけ易さ(受付窓口を昼休み一時間休む企業がゼミの調査では四社ありました)受注の正確さ、完全さ、タイムリィな配送、従業員の礼儀、請求書の判り易さなどです。

 もちろん企業からみた基準もシステムの問題個所を発見して解決しシステムをスムーズに運営する上でも、費用対効果をあげる上でも重要なことですが、顧客の基準は顧客ロイヤリティを高める上での優先順位の決定、システムの改善の面でもっと重要です。

 

サービスにはシックス・シグマは通用しない

 

 評価に当たって目標値が設定されています。言い方を変えると許容値として受け取られるかもしれません。最近シックス・シグマということがしきりといわれています。一〇〇万個あたりの三・四個の不良品しか認めないことです。しかし、これはあくまでモノを生産する場合に許されることであって、サービスのクオリティは一〇〇%が要求されます。毎日、世界中で国内線を含めて何千便、何万便のフライトが乗客を運んでいます。一〇〇万回のフライトごとに三・四件の墜落事故を許容することができるでしょうか。

 アメリカでの計算ですが、アメリカで一日に外科手術を受ける人の数は六万七千人です。九九・九%の許容率ですとなんと許容誤差の範囲内に落ちた六七〇人の人が合併症に苦しんだり、私のようの障害者になったり、死んだりしているのです。年間では二十一万人の数に及ぶのです。実際の統計では手術の失敗は一日二五人ということですから九九・九六三%になっています。

目標値は本来的にはゼロでなくてはなりません。しかし、日常業務ではミスの発生は現実ですからこれを引き下げるためには目標値を置くことは理に叶っています。従って、目標を達成したからそれに満足せず、今年より来年、どんどんハードルを高くして目標値をゼロにする努力を絶え間なく続けていかなければなりません。

  「イラスト版 顧客ロイヤルティの経営」日本経済新聞社 第9章より