白鴎大学論集 第12巻第1巻 1997.3.23
論 文
顧客サービスの外部委託問題をめぐって
〜テレマーケティングの一機能として〜
A Study on
Outsourcing in Customer Service
佐 藤 知 恭
この論文は1993年10月3日(日)
午前9時〜午後1時から米国テネシ−州ナッシュビルのオプリランドホテルで行われたSociety of Consumer Affairs
Professionals in Business (SOCAP)第20回年次大会に先立って行われた『Outsourcing Forum』の論議を中心にしてまとめたものである。
「サービス労働者の生産性向上のための必要条件ととして、多くの場合サービス労働そのものが「外部委託」されるようになる。」とピーター・ドラッカーは「ポスト資本主義社会」のなかで指摘している。(同書一六九頁―一七二頁)つまり、サービス労働が独立した専門会社に「外部委託」され、委託された専門会社は競争の原理によりサービス労働の生産性の向上によって利益を上げていく。したがって企業はその本業に焦点を合わせた成果に直接結びつく仕事のみに集中し、収入を得ていく姿になり、その他の業務はすべて「外部委託」するようになっていくというのである。
我が国でも警備業務、受付業務、さらにはデータ処理などの分野でアウトソーシングが採用され始めている。さらに、顧客サービスの分野にも電話対応業務をテレマーケティング・エージェンシーに委託して、成果を上げている例も見られるようになった。
アウトソーシングが注目されたのはバブル崩壊後の企業のリストラの一環としてこれまで企業の本体でやっていた業務を子会社を作って下請けに出すという考え方、また関係の無い企業に仕事を出す、とくに人件費を中心とした経費削減が目的であった。
アウトソーシングとはその企業本来の業務以外を社外の専門集団に委託する関係で、その立場は受託企業とはパートナーとしての対等な関係である。我が国の企業に見られる自動車メーカーと下請企業、さらに孫請け企業というように縦の系列化、しかも排他的な主従関係といった考え方ではアウトソーシングは成立しない。
Outsourcingの定義
まずOutsourcingという概念は伝統的にすべて業務は自社の内部で処理し、外部の組織やコンサルタントなどを活用することになれていないわが国の企業風土ではこれまで余り馴染みのない考え方であり一般化されていない。アメリカにおいてもかなり限定された範囲での使用がされていたようである。まずそのコトバの意味から考えてみよう。このコトバは通常の英和辞典には載っていないまだ日本語にはまだなっていない言葉である。これは文字通りoutという言葉と
sourceという言葉の組み合わせから成り立っている。すなわち組織の外側と供給源という言葉の組み合わせなのである。
Websterの12000 words辞典の1986年版によると:
The
procurement by a corporation from outside especially foreign or non-union
suppliers of part it formally manufactured.(会社が外部、特に外国あるいは非組合員
の供給業者から以前に製造されていた部品を調達すること)と説明されている。また
Longmanの Dictionary of the English Language辞典は次のように説明している。
To
obtain components from outside especially foreign suppliers(部品を外部、特に外国の供給業者から手に入れること)とされている。
アウトソ−シングに関しての学問的な定義はあまり見あたらないが「あるまとまりを持つ主要な契約の遂行に部分的に貢献する契約」[1](西口、1996)と定義されている。
現在広くビジネスの世界で使われているアウトソーシングの意味はドラッカーの論文のように「企業本来の業務以外の業務を外部の専門集団(企業)に委託していくこと」なのである。SOCAPのOutsourcing
Forumの場で取り上げられたOutsourcingの意味はこの辞書的説明をもっと拡大して「企業の顧客相談センター活動の外部委託」の問題であり、その導入の是非を中心に広く委託側と受託側のそれぞれの側から問題点を話し合うという内容であった。
顧客サービス業務の外部委託の始まり
企業の受付業務を始め、また家電各社の修理サービス、さらには配送業務などすでに広く外部委託が行われている顧客サービス関連業務が存在する。しかしこの論文で取り上げる問題は主としてテレマーケティングの分野の課題に限定して行われる顧客サービス業務の外部委託問題に焦点を絞って論じていきたい。
テレマーケティングの分野において企業の顧客サービス活動を外部の業者に委託するアウトソーシングは日本でも今日大手テレマーケティング会社になった(株)ベルシステム24が一九八〇年代半ばから外部委託を受け入れ難いわが国の市場でテレマーケティングの分野で先駆者的な役割を果たしながらその導入・拡大に努力をしてきた。
コンビニエンスストアの二十四時間営業に伴って業務用冷蔵庫を入れているメーカーのサービスマンは当初毎晩二人宿直していた。一人が修理に出ている間、もう一人は電話番をしていた。電話番なら専門技術者でなくとも勤まる。その電話の受けの業務を24時間業務をするところから社名に24を付けた同社が手がけたのだ。メーカーは限られた数のサービスマンを有効に使えた上にかなりの経費を節約できた。さらに同社は損害保険各社を一括して時間外・深夜の事故受付を業務とした。
いま顧客サービスのかなり広い分野で多くの企業がテレマーケティング・エージェンシーに業務を委託しているケースが増えている。白A大学消費者対応論ゼミナールの調査でも17.1%の企業が代行業者と何らかの関係を持っている。
もし顧客との接触という意味で受注業務まで入れると企業の営業時間外の業務のほとんどがテレマーケティング・エージェンシーの手に委ねられているといってもいいだ
ろう。またこれらのエージェンシーから人材派遣という形でそれぞれの企業のコールセンターに出している例がかなりある。したがって、テレマーケティング・エージェンーの中には人材派遣業の認可をとっている会社も多く、エージェンシーにとってはかなりの収入源になっている。
顧客サービス分野でのテレマーケティング・エージェンシーへの外部委託は今後ますます増えていくことが予想される。
『外部依託』に関する基本的認識
この問題を考えるに当たってひとつの点を明確にしておかなければならない。それは『外部依託』がリストラに脅える顧客サービス部門を救うための万能薬でもないということである。事実もし外部依託によるサービスが適切に開発されなかったり管理されなかっとしたら、サービスのレベルの低下を招く大変なリスクをもたらす。時には消費者の企業に対するロイヤリティをぶち壊してしまうことになる。そして現実にそういう問題は起こっているのである。
優先順位を単に外部依託サービスに与えるばかりでなく、どの種類のサービスで可能なのか、扱わせるべきかを考えるべきである。
外部委託問題がクローズアップされてきた背景
まず、米国においてこの問題が注目され始めた背景についてどのように考えられてきたのだろうか。このフォーラムでは次のような見解が示された。
ここ数年間の世界中の大企業において劇的な変動は少なからず起こっている。吸収合併、整理統合、株式取得、完全な解体が多く行われている。あるいはこれまで規制が厳しかった業界(トラック業界、航空業界、ガス・電力・水道業界など)が規制緩和に伴って競争が激しくなりその結果としてかつて消費者主導企業として突然現れた多くの企業が消滅したというケース(ピープル・エキスプレス社やレーカー航空などの例)が見られる。
70年代あるいは80年代は機会と度を超した消費の時代であった。しかし90年代になると切り詰め(節減)の時代となった。つまりこれらの変化への適合の時なのである。今や騒ぎは収まり、企業の経営者はこの変化の影響の深刻さををようやく身に沁みて感じ始めた。
これらの企業の新しい実体をより生産的にかつ利益向上にいかに結び付けるか関心が集中している。規模の経済は例えばすべての給与計算や会計業務を一本化するといったように類似の機能を統合することによって達成することができる。しかしこれらの段階では不十分であり更に統合が起こることが予想される。あるケースではこれはより劇的段階の前兆ーーーダウンサイジング(90年代の言葉で言えば『ライトサイジング(適正化)』)になるだろう。(今どの講師も口を開けば『ライトサイジング』、この言葉が流行語になっていた。)
何がアメリカの企業に起ってきたかを容認するとか大目に見るとか批評するとかという論議の対象ではないがおそらくこれから先もこの問題で多くの論争が起こることは疑いの余地はない。そしてこの問題の焦点はこの変革がどのように消費者問題の専門家に影響を与えるかの問題である。
『ライトサイジング』が消費者部門に及ぼす影響
企業の消費者関連の担当者として業務の中でこれらの転換から無関係でありたいと願っているが現実はこれらによって多大の影響を受けざるを得ないのが実情である。会社はいかにしてコストをコントロールし一般経費を圧縮する方法を血眼になって探しているのである。言い換えれば会社の関心はいかに減らした費用でサービス(たとえば消費者への対応業務)提供することができるかということなのである。
もし消費者応対業務を管理しているとしたら、人件費、設備、スペースなどのコストの引き下げが大きく関連してくれるだろう。損益勘定を改善するにあたって、もしこれらのコストをなくすことができたら、大変刺激的なことであろう。そこで費用削減の方法を展開する新しいアプローチとして消費者対応努力の全部あるいは一部を「外部に仕事を下請けに出す」とか「外部委託」が注目されている。それは「サービス労働者の生産性向上のための必要条件ととして、多くの場合サービス労働そのものが「外部委託」されるようになる。」とピーター・ドラッカーは「ポスト資本主義社会」のなかで指摘されている必然なのかもしれない。
確かに外部委託の方法は会社のコスト削減に容易で相対的に痛みの少ないやり方ではあるが、消費者問題専門家としての責任として、サービスの高いレベルと顧客満足を保証するためのあらゆる選択肢を分析しなければならない。
『外部依託』に関する基本的認識
この問題を考えるに当たってひとつの点を明確にしておかなければならない。それは『外部依託』が消費者部門のライトサイジング(適正化)に貢献するための万能薬でないということである。事実もし外部依託によるサービスが適切に開発されなかったり管理されなかったら、サービスのレベルの低下を招く大変なリスクをもたらすことになる。時には消費者の企業に対するロイヤリティをぶち壊してしまうことになる。
優先順位を単に外部依託サービスに与えるばかりでなく、どの種類のサービスで可能なのか、扱わせるべきかを次の項目を考慮に入れて考えるべきである。
前向きにものを考える消費者部門責任者ならば徹底的に『外部依託』についてのメリットとディメリットを調べ分析しなければならない。そしてこれに対する疑問が社内などで生じたら回答できるように準備しておかなければならない。
『外部依託』のメリット
1.消費者からの電話を部分的あるいは全部取り扱わせるのは効果的なやり方である。
2.外部依託することによって社員の数の削減とそれに関連する費用(社会保険などの費用や設備などのコスト)を減らすことができる。
3.消費者部門担当者がコンピューターのソフトの変更についての知識をもはや必要としなくなる。さらにCIS(コーポレート・インフォーメーション・システム)担当者が消費者関連業務への支援活動を行うことがいらなくなる。
4.消費者部門担当者が料金受信人払いのテクノロジーやACD、あるいはてれコミュニケーション事情の変化を追いかける必要がなくなる。
5.消費者問題責任者はサービスレベルと回答時間の基準を設定することができる。
そして、このレベルに沿って信頼性を維持することによって外部依託サービスの質を保持することができる。
6.消費者問題責任者は通話量の変動がある場合や、プロモーション活動、特定のフィルフルメント・プロジェクトを取り扱う時に外部依託業務提供業者の能力をうまく利用することができる。
『外部依託』のディメリット
1.外部依託サービスはすべてのタイプの通話に対応することができない恐れがある。
したがって、複雑なあるいは深刻な消費者問題に対応するために会社においてバックアップする必要がある。
2.最初のうちは、コストの節約は魅力的であるに違いないが、コストはやがて本社の消費者部門の予算の限度をあっという間に上回る可能性がある。(すべてのオプションを考慮に入れる必要がある。例えば、社内の要員をすべてパートタイマーに変えることによって社会保険などの間接人件費を減らすことができることなどを考慮に入れる。)
会社と委託業者との契約はすべてのコストが含まれていることを確認して十分な注意を払って検討審査しなければならない。管理費用、それにくわえて料金受信人払いのコストは慎重に審査し分析し監視しなければならない。
3.研修問題
@ 消費者への対応の正確性を確保するために誰が(多分企業の人間)外部依託サービス訓練を実行し研修を行うのか明確になっていない。(このことは付随する社内コストは外部依託業者にかかるコストと同様に全体の費用の一部として考慮に入れる必要がある。)外部依託サービス企業での人事移動は業務実行のレベルの変動と同様に研修の過程およびスケジュールに大きな影響を及ぼす。
A 外部依託業者の担当者にいかにして会社の文化(社風)を滲み込ませるかという問題である。これは外部依託業者一社に限られている場合には適用できることであるが、もしその外部委託業者が複数の企業の業務を取り扱っているとするならばそれは不可能に近い。実際の担当者の企業に対するロイヤリティは所属するエージェントに対するものかそれとも委託する企業に対するものか。
B 社内的には、多くの企業においては消費者対応を経営研修カリキュラムの一環として位置付けている。この消費者対応業務を外部依託にすることによってこの研修が自由選択なものになってしまう。つまり『キャリヤー・パス(昇進をする為に通らなけならない過程)』でなくなれば企業内の消費者関連問題担当者のやる気や動機に大きな影響が出てくる。
C 多くの場合、社内の消費者問題担当者は電話を受けてた時に『行間を読む』ことができる。そして、切迫した危機に関する問題や市場調査情報として役に立つ付随的な情報を聞き出す術を知っている。外部依託業者の従業員がしっかり書かれたスクリトをはずした研修を受けさせることができるだろうか。行間を読む訓練を行うことができるだろうか。それを行うような気配りができるだろうか。
D 政策の突然の変更や緊急な状況が発生した場合外部依託業者の担当者にどのようにしたらコミュニケーションを図ることができるだろうか。
その他の考慮点
1.企業秘密や知的所有権などに関する情報の問題:委託していた外部依託業者が競争相手に同じような顧客対応サービスを行っている時はどうなるのだろうか。
2.もし会社に直接アクセスできないなら企業が標榜している『顧客に接近している』ことをどのように裏付けするのか。
3.社内の消費者担当者の場合「市場調査」情報の検索に関する費用は特にかからないで組み込まれるが外部依託の場合「市場調査」情報の検索に関する付加的コストはどうなるのか。
4.顧客が会社の代表(担当者)と話しているのではないことを知った時あなたの会社に対してどのようなタイプの印象を持つだろうか。
5.外部依託業者に対してどのように基準を設定し、効果的なクオリティ・コントロールを維持することができるだろうか。
6.もし外部依託を遂行するように決めたならば、外部依託を全面的に行うのかそれとも部分的に行うのか。もし部分的ならばどのような機能を任せたら、成功するだろうか。
7.これが唯一の選択肢だろうか。消費者問題のアントレプレナーになることを考えたことはないだろうか。企業はダウンサイジングを図っているが多くのサービスや活動はビジネスを支援する為に続けなければならない。誰があなたより消費者問題をうまく扱うことができるだろうか。
外部委託に当たっての重要な視点
もっと重要な点をあげれば、外部依託の決断を下すに当たって外部依託業者が果たす消費者問題専門家としての役割は何かを考慮する必要があるという問題である。企業のマネージャーとしてあらゆる選択肢のなかから選ぶことが大切である。
現実は企業の消費者関連部門の管理職は企業を運営していて、オペレーションを効果的問題専門家として、自社の顧客に対して高いクオリティのサポートと援助を提供し、消費者の商品およびサービスに関する傾向、認識、関心についての情報を会社に提供する責任をもっている。
消費者関連部門の管理職としての役割は消費者の声を企業に反映させ、引き続きこの努力を支援することにある。ひとたび報酬を払ってこれらのサービスの提供を外部依託業者に任せれば専門的な消費者対応の責任の重荷を会社から取り去ってしまうことになる。
そうなると、会社はいまや消費者情報とフィードバックをあたかもほかのビルの清掃やメインテナンスのような通常の契約サービスと同じように認識するようになるだろう。つまり会社が顧客の問題に真剣にコミットメントをしなくなるだろう。顧客主導企業で欠くことの出来ない顧客との接触を失うことにもなり兼ねない。その点を十分考えるべきである。
フォードモーター社のケース
フォード社の国内販売での場合顧客サービス部門の位置付けは次のとおりである。
組織図 省略
オーナー・リレーションズ・オペレーション部門のなかで外部依託の対象になり得る部門は次のとおりである。
Customer Assistance Center
Owner Dialogue Center
Consumer Affairs
Mediation/Litigation
Reacquired
Vehicles
Administration/Analysis--systems support/ programming
フォード社は米国の企業では極めて早い時期、つまり1960年代末に電話を活用した消費者対応システムを家電メーカーのワールプール社に次いで採用しクライスラーの対応と対照的なアプローチをした。すなわちクライスラー社は広報担当副社長クラス(Byron
Nicholas)を『デトロイトの人』と名付けて、消費者からの苦情を手紙で寄せるようなキャンペーンを60年代後半に展開したが対応がうまく行かずかえって不評を買った。それに対してフォード社は『We
listen better』という電話によるキャンペーンを行った。 フォード社はこれらの部門においてすべて外部依託を行っているものでなく部分的に行っている。
まずCustomer
Assistance Centerでは外部依託を行っていない。このセンターは全国一か所に集中して処理されている。ここのオペレーションは1990年3月から始められたが、マネージメントはすべてフォード社の責任で運営されている。ここには250人の社員が働いている。社員の中から雇用されたり、リクルート活動が行われていて、外部依託は行われていない。
こうしたセンターでの処理を社内で行っているメリットについてOwner Relations Managerの Jery M. Frickは次のように説明している。
まず自社の従業員が直接体験によって、『顧客の声』の経験をさせることができるメリットを挙げている。とくにマーケティングやセールス担当者、さらにエンジニアや製品開発の担当者にメリットが生まれる。第2に人材開発の利点が挙げられる。
つまり直接お客と対応する顧客サービス担当者、さらにこれを管理するスーパーバイザー、また顧客の声のフィードバックを受ける人達の資質の向上に役立つ。三番目に社内顧客に対するサービスを助長する点が考えらる。。直接お客に接することのないエンジニアリングや生産、製品開発、設計、また現場の組織や販売店にも影響が出て来る。4番目に雇用やリクルート活動の面でのメリットが考えらる。
一方、オーナー・ダイヤローグ・オペレーションでは外部依託が進んでいる。というのはこの組織はすでに自動車を購入した顧客を対象にアウトバウンドで電話をかける作業だからである。電話をかけることによって顧客のロイヤリティを高める業務である。ここではマネージメントはフォード社で行っているがスタッフはエージェントに依存しており、ここには180人が派遣されている。ここの業務は臨時の業務と継続的な業務が混在している。
その他の消費者関連部門、例えば全国に22か所に存在する紛争仲裁組織ではこの性格が第三者調停機関でであるので外部依託になっており、また法務関係の組織も同様である。事業団体や企業の紛争仲裁組織は通常コンシューマーアクション・パネル(Ford Action Panel)と呼ばれているがフォード社では「フォード・コンシューマー・アピール・ボード(Ford
Consumer Appeal Board)」と呼んで各地に存在している。これははどのような仕組みになっているのであろうか。ワシントンD.C.地区の例で説明してみよう。このボードの構成メンバーは消費者行政担当者、2名(カウンティ[郡]の消費者問題局〔Office
of Consumer Affairs〕の責任者)、フォード社のディラーの社長、2名、アメリカ自動車協会(AAA)――日本のJAFに相当する――から1名、合計5名で構成で問題を審議する。もしサービス関係の問題でユーザーがクルマのディラーと話し合って解決しない場合には、その顧客は料金受信人払い電話で「フォード・コンシューマー・アピール・ボード(Ford
Consumer Appeal Board)」へ電話することが出来る。するとフォード社の担当者が解決に努力してくれる。しかしそれでも解決しなかった場合には、この「5人委員会」によって、個々のケースについて,公正、かつ公平な判断が示されるのである。この決定はフォード社ならびにディラーを拘束するものではあるが、アピールした顧客を拘束するものではない。(拙著『体系:消費者対応企業戦略』、八千代出版社、1986年 pp.142〜143)
再取得車両の取扱部門でも現場のフィールドワークなどは外部依託を取っている。さらにアドミニステレーション(管理部門)/分析部門でも社内/社外のシステムサポートにはプログラマーを外部依託している。
すべてあるいは部分的に外部依託している部門でのメリットでは固定費の管理の面から『適正化』を評価することができる。また状況に応じてスタッフの数の調整ができるし、とくに特別なプロジェクトやプログラムを実施する場合には外部依託がフレキシブルに運営できるメリットがあり、さらにコストの面でのメリットが生まれる。
クラフト・ゼネラル・フーズ社 (KGF)
KGFはアメリカン・トランステック(American Transtek)社に外部依託をしている。KGFは購入者のデータベースの管理や消費者対応の基準の開発とモニターを受け持っている。ATIは料金受信人払い電話と郵便による消費者対応を担当している。また対応システムや対応データベースあるいは消費者のデータベースをATIが取り扱っている。
つまり、KGFでは日常的なルーティンなものはATIに委託している。例えばATIの役割として、特別なコール、郵便での対応、フィルフルメント、顧客サービスの研修、人事採用、システム開発、日常的な週間あるいは月間の報告といった業務を担当する。一方KGFのビジネス・ユニットは複雑な電話の処理、製品情報の提供、ATIおよびビジネス・ユニットのスタッフに対する製品についての研修、その場に応じた分析の設計、消費者データの使用、特別な状況の支援などが挙げられている。この責任の分担分野ははっきりしており両者の関係はパートナーシップに支えられていることを強調されている。
ナショナル・カ−・レンタル社
1992年は今迄にないほど消費者問題専門家にチャレンジと異なった機会を与えた年であった。運輸業界は、過激な航空運賃戦争の成り行きとして登録された顧客のボリュ−ムと連動した”ライトサイジング―適切なサイズ”測定の成果に直面した。
ナショナル・カ−・レンタル社の消費者問題部門も例外ではなかった。同部門はお客様からの如何なる問題や質問に24時間緊急ロ−ドサ−ビスを含めた”ワン・ストップ”サ−ビスの態度で接している。1992年春には今迄になかった位の顧客ボリュ−ムになった。業務の一番のプライオリティは、故障車のお客に対して迅速で信頼性のあるサ−ビスを提供することである。これをよりうまく稼働させるために、ナショナル・カー・レンタル社は米国とカナダにおいてロ−ドサイドに詳しい外部業者にエマジェンシ−・ロ−ド・サ−ビス(ERS)―緊急ロ−ドサ−ビス―をアウトソ−シングすることにした。この迅速な判断を実行するのには最小限度の努力しか要せず、即座に結果が出た。ロ−ドサ−ビス機能をアウトソ−シングすることにより下記のような利点があった。
・ 車に問題があるお客に迅速で頼れるサ−ビスを確実に提供できる。
1.
効率が高まる。緊急ロードサービス(ERS)業務に関しては他の如何なるお客からの問い合わせよりも、平均的に長く対応する。
これらの電話を新ル−トで権限を与えた外部業者から我々のスタッフに対応させると、1社員あたりの処理件数が上がる。つまりそのほとんどの問合わせの処理を外部委託業者に任せることによって依頼主のERS業務担当の社員の生産性が向上するのだ。
これらの利点は依頼主の顧客満足のレベルを保つキ−となるものである。
外部委託した場合、測定方法において電話の話の内容のタイプとその理由は自社でやっていた時に比べて詳細ではない。プログラムを導入して2〜3ケ月経過しないとこの問題が証明されない。車両及び修理部門においてはこれらのレポ−トを来年以降のそれぞれの車両サ−ビスへの要求や車両収容設備計画立案に役立てている。
このプログラムにかかる実際のコストは高くついた。これらの高いコストは不都合を迅速に解消する意味でアウトソ−シングであり、問題を無期限で解決するという性質のものではない。アウトソ−シングをすることによって依頼主に他の選択肢を調査する時間や、最良の長期的な決定を下すように訓練を施す時間を生み出すことが可能になった。それにともない、可能な限りのクォリティの高いサ−ビスをお客に提供する機会を増やすことになるのである。
外部委託業者からのレポ−トは、依頼主にいろいろなアドバイスを含んだ価格設定分析に関する必要な情報を与えてくれる。これはナショナル・カー・レンタル社の経営陣が需要に見合うスタッフの増員と共に緊急ロードサービス業務を仮に社内で行った場合のメリット・ディメリットを明確に把握することが出来るのである。
とても高いレンタルの需要の高い期間において全体的な満足度レベルの維持を保証するためにナショナル・カー・レンタル社は、アウトソ−シングをいち早く導入し活用することに成功した。これに加え、長期的な解決方法の開発時のすべてのオプション利用が可能になるように、このプロセスを注意深く検討することができた。短期的には、アウトソ−シングは顧客満足を保持するのに有益な道具として証明され、長期的には、価格に効果的で顧客主導型体制においての分析と思考ができることが明らかになった。
ナショナル・カ−・レンタル社の緊急ロ−ドサ−ビス及びエメラルドクラブメンバ−サ−ビスの消費者問題マネ−ジャ−であるメリ−・マックエロイ・マルヴァインによると彼女が統括する部署はクォリティの高いサ−ビス、24時間ロ−ドサイドサ−ビス、頻度の高い利用者プログラムのメンバ−のためのフリ−ダイヤルを行っている。
クエ−カ−・オ−ツ社
アウトソ−シング・サ−ビス・ビュ−ロ−からの実用的なサ−ビスサポ−トは、企業の顧客機能に新しい方向性を与えるものである。大半の部署では、通常の業務内容から予め計画された電話本数の入呼量が管理されている。しかし再コ−ルやその他の色々な公表された製品等の危機は入電ピ−クには大変高い入呼量になり社内で管理をするのが難しくなる。アウトソ−シングサ−ビスの利用は、現在進行中のビジネスのサ−ビスのレベルを高く保つことや危機を効果的に管理するクエ−カ・オ−ツ・カンパニ−の顧客対応グル−プに付加価値の材料を提供するものだ。
クライアントのニ−ズに一番見合うビュ−ロの選択が必須である。そこでクライアントの責任は選択から始まる。下記のコメントは、クエ−カ・オ−ツ・カンパニ−の経験から得たもので、特定な危機に直面した状況においてサ−ビスビュ−ロ−から責任あるサポ−トを保持するための鍵となる企業クライアントの役割について検討する際に役に立つものである。
・ 必要になる前にサ−ビスビュ−ロ−を査定し選択する。選択は要求されるサ−ビスのタイプ、サ−ビスビュ−ロ−の経験の豊富さ、サポ−トの可能さで実施し、参考資料を請求し、サ−ビスクォリティ−に関し他のクライアントに照合してみる。
・ 危機に陥る前にアクションプランを作り、サポ−トサ−ビスが使用できるようにシナリオを作成する(即ち、生身のオペレ−タ−のための受動的又は非受動的な選択、献身的または非献身的のオペレ−タ−)
・ 危機の本質、予測するタイミング、特別なサポ−トの必要の有無、入電量の見込み等の詳細を展開する。
・ 受動的にならざる得ない時のQ&Aやサ−ビスビュ−ロ−のオペレ−タ−のスクリプトに手を入れ、プレスリリ−スの情報と合わせて直接関係のある事実をも取り入れる。簡潔でお客様が使っている言葉を使い鍵となる事実を強調する。
・ 直面している問題で電話を取るオペレ−タ−が利用するプログラムスクリプトをサ−ビスビュ−ロ−と一緒に作成する。
・ サ−ビスビュ−ロ−・トレ−ナ−/ス−パ−バイザ−が準備のために利用したり、電話を取り扱うオペレ−タ−スタッフを管理したりモニタ−するために役立つ簡潔で的を射たバックグランド情報を作成する。
・ オフィスにフィ−ドバックしなければいけない入電の性質の詳細や、取り扱い時間中あるいはその後にどこでいかに企業のレップが捕まえられるかといった内容の情報をサ−ビスビュ−ロ−・ス−パ−バイザ−のために用意しておく。
・ 入電数の予測と一時間当り一番入電数が多く期待できる鍵となる時間帯をサ−ビスビュ−ロ−と一緒に検討してみる。
・ 提供されるオペレ−タ−のレベル、進行上の手順、入電量から警戒態勢/是認に必要な時間のレベルの増減の調整といったものも検討される。企業クライアントとサ−ビスビュ−ロ−が一緒にこのことを実施するのが必須である。
・ 立ち上げ時のプログラミングより以前にサ−ビスビュ−ロ−が必要とする特定なレポ−トを確認する。(時間毎のデイリ−、特定のカテゴリ−毎の数、レポ−トの提出頻度、誰が受け取るか)
・ サ−ビスクォリティがどのように提供されているかを査定するためにサポ−ト中にサ−ビスビュ−ロ−はテストコ−ルを実施する。フィ−ドバックはサポ−ト期間中や査定後にサ−ビスビュ−ロ−の担当者(レップ)と一緒にしなければならない。
顧客サービス業務の外部委託は成功するか
顧客サービスの外部委託は物流から修理サービスなどまできわめて広い範囲で可能であるし、現実にすでに子会社という形態を取りながら行われている。ここで問題に取り上げるのは子会社とか系列会社という形態でなく、一個の独立し、しかもいろいろな複数の業種を取り扱っている代行業者、それも電話などの通信手段を使っているケース、言うなればテレマーケティング業者によるアウトソーシングの問題に限定して考えてみよう。
顧客サービスとテレマーケティング業者によるアウトソーシングの問題点とアメリカでの実際例はすでに述べたとおりだが、我が国の場合、果たしてこれがうまく機能するだろうか。いろいろな角度から検証を試みたいと思う。
最大の問題点は我が国の企業にはパートナーシップという概念が希薄なことである。これは業務を外部に委託しようという企業はもちろんそれを受託する側の企業にもある。
委託しようとする企業はあくまで業務を委託する企業を自分の配下において支配しようとする風土、つまり縦割りの系列意識から脱却できない。自動車産業、建設・土木業界などに顕著に見られる例である。つまり大企業を頂点にして下請け企業、さらに孫請け企業といった構造ががっちり出来上がっている。
バブルの崩壊後、リストラに走った大企業はアメリカの企業と違ってレイオフという形を取れなく、子会社を設立してその会社にこれまで社内でやっていた業務、あるいは系列に関係に無い専門会社に委託していた業務を委託することがしきりと行われた。ポストのなくなった中間管理職をそれらの会社の経営者あるいは管理職として出向あるいは転籍させることで実質的な首切りを避けることが可能だったのだ。
たとえばかつては大手損保会社は一括して時間外の事故処理業務をある大手テレマーケティング会社に外部委託していたのだが、東京海上火災が自社の子会社を作ってその業務を移したことがきっかけになりほかの損保各社もそれぞれ子会社を設立して独立、これまで委託を受けていたテレマーケティング会社はそれぞれの会社に要員を派遣する形を取ったというケースがある。
一方、委託を受けたテレマーケティング会社側にも問題がある。もっとも重要なことは実際に電話を使って顧客と接するレプレプレゼンタティブ(窓口担当者)の専門性の問題である。
通常テレマーケティング会社では営業がクライアントのところに行って契約を取ってくると、その委託される内容に応じてアルバイト情報誌、新聞広告や口コミを通じて要員を募集する。その応募者の中から必要な人数をアルバイトあるいはパートとして採用して業務に当たらせる訳である。とにかく要員の数の確保が先決だからその質まで厳密に問うことはほとんどできない。
先日ある通信販売の健康治療機器に興味を感じて、日曜日だからやっていない思いましたが一応広告に記載されていたフリーダイヤルに電話した。すると相手が出た。そこでかなりの価格のものだったから、その仕様や使い方などについて聞いた。ところが相手は「注文だけならお受けしますが、商品の内容についてのお問合わせでしたら月曜日から金曜日の午前九時から午後五時まで次の電話番号に電話をかけてください」という答えだった。いろいろ確かめて納得した上で注文したいというと私はアルバイトで電話の注文を取ることだけしか頼まれいないのでどうすることもできない」との返事だった。みすみすその企業はビジネスの機会を失ったわけだ。
現状では専門集団のテレマーケティング業者に委託してもこれ以上は望めないのが実状であろう。
■
参
考
『Outsourcing
Forum』の発言者
パネルは企業側からの以下のパネリストの順で発言が続いた。
Ford Motor
Company
Jerry Frick
General Foods
USA
Don Mayer
National Car
Rental
Mary McElroy-Mulvain
The Kellogg
Company Linda
Pell
PolaroidCorporation Bob Gill
ここまでのプレゼンテーションが午前9時からコーヒーブレークを20分はさんで午前11時半まで続けられた。
その後いわゆる委託を受けているエイジェント側から
American
Transtech
Nancy Dreicer
EDS
Lisa Leoford
JCPenny
Telemarketing Walter
Nencka
Ruppman
Marketing Cherie Thies-Pate
それぞれ外部委託業務のメリット、更にいろいろな疑問点について説明をした。
この論文は拙著『電話で顧客満足ってどうやるの?』(日本経済新聞社、1997)の第16章の下敷きになっている。そのため一部の記述に同書と重複する点があることをお断りしておく。